「支える」が「異議」になる。
訳例(添削前)の判定は、5文のうち○が1つ、△が1つ、×が3つ。大きく崩れたのは、menyanggah(異議を申し立てる)を menyangga(支える)と聞いたような似た音の取り違えと、村の軍人や警察官を「部」「局」と訳したところ、そして「何を信じないのか」という文の骨組みの抜けです(Nomor 1・3・4)。
どのニュースも、背景を知っていれば訳語が自然に決まります。5つのニュースの背景から順に解説し、訳例の赤ペンをまとめて見てから、1文ずつ直していきます。
①似た音の語——menyanggah(異議を申し立てる)と menyangga(支える)、spontan(自然に)と sporadis(散発的な)。1音の違いで、意味が逆になったり、まったく別の話になったりします。
②役職名は「人」——Babinsa(村落指導下士官)、Bhabinkamtibmas(地域治安指導警察官)、kader posyandu(保健ポストのボランティア)、Direktur(取締役)。「部」や「局」と訳すと、人が組織に変わってしまいます。
③骨組みと小さい語——kabar yang mengaitkan A dengan B(AをBと結びつける情報)のような文の中心と、ribu(千)・sekitar(約)・tahun ini(今年の)・tidak lagi(もはや〜ない)のような小さい語。1語落ちると、文の意味が変わります。
聞く前に、5本のニュースが何の話かを押さえておきます。背景が分かっていれば、聞こえた語の訳し方に迷いません。
インドネシアには、生活の苦しい家庭を支える社会保護(perlindungan sosial、略して perlinsos)の制度がいくつもあります。貧しい家庭に条件つきで現金を渡す「希望家族プログラム(PKH)」や、食料品を買うための支援などです。ただ、だれが支援を受けるかを決める名簿には、本当に困っている人が漏れる一方で、条件に合わない人が受け取っているという問題が、長く指摘されてきました。
そこで政府は、支援の申し込みから審査までをスマートフォンのアプリなどでつなぐ「デジタル社会保護(Perlinsos digital)」を進めています。まずジャワ島東端のバニュワンギ県で試し、2026年には40あまりの県や市に広げました。2027年からは全国で、支援を受ける人を決めるのに使う計画です。データは、中央統計庁(BPS)がまとめる国の社会経済データ(DTSEN)や住民登録とつながっています。
このしくみで大きな役割を担うのが「担当者(agen)」です。住民に代わってデータを入力し、「この人を支援の対象に」と提案(usul)したり、「この人は条件に合わない」と異議(sanggah)を出したりします。担当にはだれでもなれ、一般の住民のほか、村を受け持つ陸軍の下士官(Babinsa)や警察官(Bhabinkamtibmas)、村役場の職員、PKH の支援員、保健ポスト(posyandu)のボランティアなども加わっています。10月14日の時点で、担当者は約68万人、登録した人は800万人を超えました。支援を受けられるかどうかを決めるのは、担当者ではなく、システムと政府です。
村長と Babinsa、Bhabinkamtibmas の3人は「村の三本柱(tiga pilar desa)」と呼ばれ、村の安全や行政を支える顔ぶれとして知られています。
分子の中には、右手と左手のように、形はそっくりなのに鏡に映した関係にあって、どう回しても重ならないものがあります。この性質をキラリティ(ギリシャ語の「手」から)と言い、2つの形を「右手型」「左手型」と呼びます。たとえばカルボンという分子は、片方はミント、もう片方はキャラウェイ(スパイス)の香りがします。
実験で分子をつくると、ふつうは右手型と左手型が半分ずつできます。ところが生き物の体では、タンパク質をつくるアミノ酸はほぼすべて左手型、DNA や RNA の糖は右手型と、片方にそろっています。これをホモキラリティ(インドネシア語で homokiralitas)と言います。1848年にフランスのパスツールが分子の「左右」を見つけて以来、半分ずつのはずが、なぜ片方だけになったのかは、生命の起源にかかわる大きな謎でした。
10月7日に発表された2026年のノーベル化学賞は、フランスのアンリ・カガン氏(95)と、東京理科大学の硤合憲三(そあい・けんそう)名誉教授(76)に贈られます。カガン氏は1980年代、反応を助ける触媒の左右の偏りと、できる分子の偏りが比例しないことを示しました(非線形効果)。硤合氏は1995年、反応でできた分子が自分と同じ形の分子づくりを助けるため、わずかな偏りがくり返すたびに大きくなる反応(不斉自己触媒反応、「硤合反応」)を発見しました。差がわずか2%ほどだったのが、反応を重ねるうちに90%近くまで広がります。2003年には、片方に偏る手がかりをまったく与えなくても、ひとりでに片方にそろうことも確かめられました。
パルプ(bubur kertas)は、木の繊維をほぐして取り出したもので、紙やティッシュ、レーヨン(衣類の繊維)の原料になります。インドネシアは世界有数のパルプの生産国で、スマトラ島などでは、成長の早いユーカリやアカシアを植林して原料にしています。
北スマトラ州のトバ湖の近くに工場があるトバ・パルプ・レスタリ(TPL)は、1983年に「インティ・インドラヨン・ウタマ」として設立された会社です。周辺の住民の反対運動が続き、1999年には当時のハビビ大統領が操業の停止を指示しました。2000年に今の社名に変え、2003年に操業を再開しています。
最高検察庁は、TPL が2008〜2025年、海外の関連会社にパルプを輸出する際、値段を実際より安く見せかけていた疑いで捜査しています。グループの会社どうしの取引の値段(移転価格)を低くすれば、インドネシアでの利益が小さく見え、国に納める法人税が減ります。高く売れる溶解パルプ(レーヨンの原料)を、安い紙用のパルプとして届け出ていた疑いや、税務調査の担当者にお金を渡した疑いもあります。国の損失は約2兆ルピア(日本円で約180億円)と見積もられています。
8月には税務当局の職員2人が、9月には会社そのものが、容疑者になりました。そして10月15日、呼び出しに応じていなかった取締役が、北スマトラ州の州都メダンで強制的に連行され、容疑者として拘束されました。
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アナク・クラカタウ山は、ジャワ島とスマトラ島の間のスンダ海峡にある火山島です。1883年、ここにあったクラカタウ火山が大噴火し、島の大部分が吹き飛びました。噴火で起きた津波などで、約3万6,000人が亡くなったとされます。その跡の海から1927年に姿を現したのが、「クラカタウの子(anak=子ども)」という名のアナク・クラカタウです。
この火山は2018年12月22日、噴火で山の斜面が大きく崩れて海に落ち、スンダ海峡の沿岸を津波が襲いました。地震による津波ではなかったため警報が間に合わず、400人以上が亡くなりました。海峡をはさむバンテン州(ジャワ島側)とランプン州(スマトラ島側)の沿岸の人たちにとって、噴火と津波は今も身近な不安です。
インドネシアの火山の警戒レベルは4段階で、低いほうからレベル1(Normal=平常)、レベル2(Waspada=注意)、レベル3(Siaga=警戒)、レベル4(Awas=危険)。アナク・クラカタウ山は2026年7月からレベル3でしたが、9月21日にレベル2に下がりました。ところが10月6〜9日に14回噴火し、エネルギー・鉱物資源省の地質庁は10月9日21時、ふたたびレベル3に引き上げました。噴火の中心から半径5kmには近づかないよう求めています。
噴火が続くなか、「60メートルの津波が起きる」といった話も出回りました。地質庁は、バンテンとランプンの沿岸の住民に、噴火が津波を起こすという話を信じないようにと呼びかけ、ふだんどおりに暮らし、地元の防災当局の指示に従うよう求めています。2018年の津波も、噴火そのものではなく、山の斜面が大規模に崩れて海に落ちたことで起きました。
インフルエンザウイルスの表面には、ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という2種類のとげ(たんぱく質)があります。ワクチンを打ったり、一度かかったりすると、体はこのとげの形を覚えた抗体をつくり、次に同じウイルスが入ってきたときに、すぐに見つけて攻撃できるようになります。
ところが、インフルエンザウイルスは変異しやすいウイルスです。増えるたびに遺伝子に少しずつ変化が起き、とげの形も少しずつ変わっていきます。これを「抗原ドリフト」と言います。形が変わると、前にできた抗体ではうまく見分けられなくなります。こうして生まれた新しいタイプを「株」(インドネシア語で galur)と呼びます。
そこで世界保健機関(WHO)は毎年2回、世界各地で集めたウイルスを調べ、次のシーズンにはやりそうな株を予測して、ワクチンに入れる株を推奨します。北半球向けは2月ごろ、南半球向けは9月ごろです。これが、ワクチンの組成(komposisi vaksin)が毎年更新される理由です。インドネシアのような熱帯の国では、インフルエンザは一年じゅう流行することがあります。
Antara(2026年10月14日)デジタル社会保護の登録が800万人を超え、担当者は約68万人
Antara(2026年10月5日)2027年に全国で導入。国の社会経済データ(DTSEN)と連携
Antara(2026年10月10日)受けられるかどうかはシステムが判定
Katadata(2026年7月13日)バニュワンギでの試行と、全国展開の計画
NPR/AP(2026年10月7日)ノーベル化学賞にカガン氏と硤合氏
RMOL(2026年10月17日)TPL の取締役を強制的に連行し、容疑者として拘束
Katadata(2026年9月7日)TPL を法人として容疑者に。輸出価格の操作の疑い
Katadata(2026年9月8日)TPL の沿革
iNews/RCTI+(2026年10月10日)アナク・クラカタウ山をレベル3に。半径5km は立ち入り禁止
CNBC Indonesia(2026年9月21日)レベル2への引き下げ
CNBC Indonesia(2026年10月9日)噴煙は山頂から約250m
IDX Channel(2026年10月10日)沿岸の住民に冷静な行動を呼びかけ
WHO:インフルエンザワクチンの組成の推奨についての Q&A
音声は1文ずつです。1文につき2回まで聞いて、聞こえた語を書き取り、日本語に訳してください。書き終えたら台本を開いて、取りこぼした語に丸をつけます。
書き取って、訳してから台本を開く
Sistem layanan perlindungan sosial digital kini melibatkan ratusan ribu agen mulai dari Babinsa, Bhabinkamtibmas, perangkat desa, hingga kader posyandu untuk mengusulkan sekaligus menyanggah data calon penerima bantuan.
書き取って、訳してから台本を開く
Dua ilmuwan asal Prancis dan Jepang dianugerahi Nobel Kimia tahun ini berkat penemuan yang menjawab misteri berusia lebih dari satu abad tentang munculnya homokiralitas secara spontan.
書き取って、訳してから台本を開く
Direktur produsen bubur kertas itu dijemput paksa penyidik pekan ini setelah mangkir dari pemeriksaan dalam perkara manipulasi harga ekspor yang diduga merugikan negara sekitar Rp2 triliun.
書き取って、訳してから台本を開く
Warga pesisir Banten dan Lampung diimbau tidak mudah percaya pada kabar yang mengaitkan rentetan letusan Gunung Anak Krakatau pekan lalu dengan ancaman tsunami.
書き取って、訳してから台本を開く
Komposisi vaksin influenza diperbarui setiap tahun karena virus tersebut kerap bermutasi menjadi galur baru yang tidak lagi dikenali dengan baik oleh antibodi yang telah terbentuk.
5文を訳した例に、赤ペンをまとめて入れました。まず1文ずつの判定で全体をつかみ、次に訳例を眺めて、どんな間違いが多いかを見てください。Nomor 5 はほぼ正確ですが、Nomor 1・3・4 は、文の意味が変わる誤りを含んでいます。
1デジタル社会保護サービスシステムは現在、社会保護を受け取る予定者のデータを提出をする①と同時に、下支えするために②数百の組織③、村指導部④に始まり⑤、社会治安秩序部⑥、村機構⑦、総合サービス局⑧と連携している⑨。
2フランスと日本出身の二人の科学者は、散発的な①ホモキラリタス②の出土③に関して1世紀以上の謎に答えた④発見により∧⑤ノーベル化学賞を授与された。
3そのざら紙生産の①社長②は国会に③∧④2兆ルピアの損害⑤を与えたとされる輸出金額の改ざん⑥事件における捜査を欠席した⑦のち今週∧⑧強制連行⑨された。
4バンテン州とランプン州の沿岸地域の住民は、先週のアナッククラカタウ火山①の津波のおそれのある②連続③∧④を容易に信じないよう呼びかけられた⑤。
5形成された抗体が、頻繁に新規株①に変異するウイルスをうまく認識できない②ため、インフルエンザワクチンの構成要素③は毎年組み替えられる④。
それぞれ、訳例の語と何がいけないかを示し、→ のあとに直しを書いています。くわしい理由は、STEP 3 で1文ずつ説明します。
ここからは1文ずつ、原文 → この文は何を言っているか → 文の骨組み → 訳例(添削前)→ 修正した訳 → 直すところの順に並べています。赤い丸数字は、STEP 2 の一覧と同じ番号です。修正した訳のマーカーは、書き換えた箇所です。
国のデジタルの社会保護の仕組みには今、数十万人の「担当者(agen)」が加わっている。村を受け持つ軍の下士官や警察官、村役場の職員から、保健ポストのボランティアまで。担当者は、支援を受ける候補の人のデータを「対象に」と提案するだけでなく、「条件に合わない」と異議を出すこともする。
mulai dari A, B, C, hingga D=「AからDに至るまで」。並んでいる4つは、どれも agen(担当者)の中身で、組織ではなく人です(図7)。mengusulkan(提案する)と menyanggah(異議を申し立てる)は反対向きの2つの動作で、sekaligus(同時に)でつながっています。
フランスと日本の科学者2人が、今年のノーベル化学賞を受けた。評価された発見は、生き物の分子が「左手型」か「右手型」の片方にそろっている(ホモキラリティ)のは、どうやって自然に起きたのかという、1世紀以上前からの謎に答えを出すものだった。
munculnya は、動詞 muncul(現れる・生じる)に -nya がついた名詞の形で「〜が生じること」。secara spontan(自然に・ひとりでに)は、この muncul にかかります。homokiralitas にかかる形容詞ではありません(図8)。
Nomor 3〜5 の添削と、模範訳をまとめて収録しています。あわせて収録しているのは次の内容です。
- 「ざら紙」「国会」「捜査を欠席」——パルプ会社の事件を伝える語と、penyidik(捜査官)・pemeriksaan(取り調べ)・mangkir(出頭しない)(Nomor 3・図9)
- 信じないのは「噴火」ではなく「情報」——kabar yang mengaitkan A dengan B の骨組み(Nomor 4・図10)
- tidak lagi の「もはや」——インフルエンザワクチンの組成が毎年更新される理由(Nomor 5)
- 模範訳(通し)、似た音の取り違え9つ(図11)、定訳カード35、次回への課題












