日→イ JAPANESIA
大統領制を sistem perdana menteri と訳すと、
インドネシアに「首相」が生まれる。
首相が好きな時期に衆議院を解散できる日本と、大統領が国会を解散することを憲法で禁じたインドネシア。2026年1月の解散をきっかけに、解散権という「伝家の宝刀」を日本・インドネシア・英国で比べた日本語の記事を、インドネシア語に訳す練習です。
訳例(添削前)は38点。senjata pamungkas(伝家の宝刀)、Asal ada(〜さえあれば)、sempat … seperti sediakala(いったん…元どおりに)は見事に取れています。ただ、大統領制をsistem perdana menteri(首相の制度)、「司法審査の対象外」をmerupakan peninjauan hukum(司法審査である)と訳して、2つの文の意味が逆になりました。kebubaran・oposit・dipucat のような辞書にない語でも、大きく失点しています。
政治のしくみを知らなくても読めるよう、衆議院の解散・2026年の総選挙・7条解散・苫米地事件・インドネシアの1960年と2001年・英国の11年まで、背景を6つの問いで解説し、訳例の赤ペン66か所をまとめて見てから、1文ずつ直していきます。
背景をゼロから(6つの問い)
赤ペンをまとめて見る
1文ずつ添削
模範訳(全文)
図解17点
今日のねらい:制度の記事は「定訳」と「範囲の語」で決まる
①制度・機関の定訳——大統領制=sistem presidensial、議院内閣制=sistem parlementer、不信任案=mosi tidak percaya、国事行為=tindakan kenegaraan、司法審査=pengujian yudisial、憲法改正=amendemen UUD 1945。漢字を1字ずつ置き換えると、逆の制度や、別の手続きになります。
②否定と範囲の語を落とさない——「対象外」「〜できない」「〜も」「実際の」「単独で」。1語抜けるだけで、意味が逆になったり(第6文)、「できない」が「しない」になったり(第7文)します。
③辞書にない形を作らない——kebubaran → pembubaran、dicantum → dicantumkan、mempersoal → mempersoalkan。形の似た別の語(pembukuan=簿記、berpacu=競走する)にも注意します。
BACKGROUND背景を、ゼロから
訳す前に、6つの問いを押さえておくと、使う語が自然に決まります。政治のしくみを知らなくても読めるよう、順に説明します。
Q1「衆議院の解散」って何?——任期の途中で、議員全員の職を解く
日本の国会には、衆議院と参議院の2つがあります。衆議院の議員は465人で、任期は4年。参議院は248人で、任期は6年です(3年ごとに半数を選び直します)。
解散とは、衆議院の議員の任期が終わる前に、全員の職を一度に解くことです。解散があるのは衆議院だけで、参議院にはありません。解散されると、40日以内に総選挙を行い、選挙から30日以内に国会を開きます(憲法54条)。その国会で、首相を指名し直します。インドネシア語では、解散は pembubaran、「〜を解散する」は membubarkan です(図1)。
解散を決めるのは内閣で、実際には内閣の長である首相が判断します。首相は大臣をいつでも辞めさせることができる(憲法68条)ので、反対する大臣がいても、解散は止まりません。2005年8月8日には、解散に反対して閣議決定の署名を拒んだ農林水産大臣を首相が罷免し、その日のうちに解散が決まりました。
いつ解散するかを首相が選べることから、解散は首相の「伝家の宝刀」と呼ばれます。家に代々伝わる大切な刀のように、めったに抜かないけれど、抜けば局面を一変させる切り札、という意味です。インドネシア語では senjata pamungkas(最後の切り札となる武器)が、同じ働きをする言い方です。ただ実際には、めったに抜かないどころか、戦後の衆議院で4年の任期を全うしたのは、1976年の1回だけです。
衆議院と参議院——解散があるのは、衆議院だけ
上は日本の国会の2つの院、下は解散から首相の指名までの流れです。
衆議院Majelis Rendah(下院)定数465人任期4年解散ある予算・条約・首相の指名では、参議院より優先される
参議院Majelis Tinggi(上院)定数248人任期6年(3年ごとに半数を選ぶ)解散ない法律案を否決しても、衆議院が出席議員の3分の2以上で可決し直せば、法律になる(59条)
解散から、首相の指名まで
解散の日衆議院の議員全員が、任期の途中で職を失う天皇の国事行為として、解散の詔書が本会議で読み上げられる(7条)
40日以内総選挙解散の日から40日以内に行う(54条)
選挙から30日以内特別国会を開く選挙の日から30日以内に召集する(54条)
特別国会の初め首相を指名し直す衆議院と参議院で選ぶ人が違えば、衆議院の議決が優先される(67条)
図1:記事の第1文の「衆議院を解散し、総選挙で」は、上の「衆議院」のカードと、下の流れの1〜2番目のことです。参議院には解散がありません。
Q22026年1月の解散——「高市早苗が首相で良いのか」
高市早苗氏は、2025年10月21日、日本で初めての女性の首相になりました。その直前、四半世紀続いた自民党と公明党の連立が終わり、自民党は日本維新の会と連立を組みました(維新は当初、閣僚を出さない形で協力)。発足の時点では、衆議院でも参議院でも、与党は過半数に届かない少数与党でした。
2026年1月23日、高市首相は通常国会の冒頭で衆議院を解散しました。解散を表明した記者会見では、「高市早苗が内閣総理大臣で良いのかどうか」を国民に決めてほしい、と説明しています。1月27日に選挙戦が始まり、投票は2月8日。解散から投票まで16日という、戦後最も短い日程でした。
野党からは「理屈も大義もない」という批判や、新年度の予算が年度内に成立しなくなるのに、なぜ今なのかという疑問が出ました。自分の党に有利な時期を選んだだけだ、という批判です。記事の第2文の「党利党略の解散」は、このことです。
結果は、自民党が316議席(小選挙区249・比例代表67)。定数465の3分の2(310)を、1つの党だけで超えました。1つの党の議席として過去最多で、単独で3分の2を超えたのは戦後初めてと報じられています。記事の第1文の「単独で3分の2を超える議席」です(図2)。
3分の2には、大きな意味があります。参議院で否決された法律案でも、衆議院が出席議員の3分の2以上で可決し直せば、法律になるからです(憲法59条)。選挙の時点で、参議院では与党が過半数に届いていなかったため、この力が大きな意味を持ちます。
2026年2月8日の総選挙——自民党が、単独で3分の2を超えた
上は解散から投票までの日程、下は選挙の結果です。1つの党の議席として過去最多で、単独で3分の2を超えたのは戦後初めてと報じられました。
解散1月23日通常国会の冒頭。投票まで16日の、戦後最も短い日程
投開票2月8日第51回の衆議院議員総選挙
自民党の議席316議席定数465の3分の2(310)を、1つの党だけで超えた
衆議院の議席(定数465)
自民 316維新 36中道改革連合 49国民民主 28参政 15チームみらい 11その他 10
「その他」は、共産4・れいわ1・「減税日本・ゆうこく連合」1・無所属4。連立を組む自民・維新の与党は、あわせて352議席。
図2:第1文の「単独で3分の2を超える議席」は、自民党の316だけで、310の線を越えたことです。連立を組む維新の36を足さなくても、超えています。
Q37条解散って?——憲法の条文と、実際の運用
憲法の中で、解散の場面を書いているのは69条です。衆議院で内閣不信任案が可決されたら、内閣は10日以内に、衆議院を解散するか、総辞職するかを選ばなければなりません。記事の第3文の「憲法は、内閣不信任案が可決された場合の解散を想定している」は、この条文のことです。インドネシア語では、不信任案は mosi tidak percaya と言います。
一方、7条は、天皇が行う「国事行為」を並べた条文です。天皇は、内閣の「助言と承認」によって、法律の公布や国会の召集などを行います。その3番目が「衆議院を解散すること」。天皇は政治の権限を持たない(4条)ので、実際に解散を決めるのは内閣、つまり首相です。インドネシア語では、国事行為は tindakan kenegaraan です。
この7条を根拠にすれば、不信任案がなくても、内閣が決めればいつでも解散できる——これが「7条解散」です。現憲法の下で、不信任案の可決を受けた解散は4回だけ。それ以外の解散は、不信任案なしに7条を根拠にして行われてきました。2026年1月の解散も、この形です。記事の第4文の「内閣の『助言と承認』さえあれば、首相は自らに有利な時期を選んで解散に踏み切ることができる」は、このことを言っています(図3)。
解散の2つの道——69条と7条
記事の第3文の「憲法が想定している」のは「69条の解散」、「実際の解散のほとんど」が通っているのは「7条の解散」の道です。
69条の解散不信任案が可決されたとき衆議院が内閣不信任案を可決する(または信任案を否決する)
→ 内閣は10日以内に、衆議院を解散するか、総辞職するかを選ぶ憲法が解散の場面として書いているのは、ここだけ
7条の解散内閣の「助言と承認」で天皇の国事行為の1つに「衆議院を解散すること」がある
→ 内閣が助言と承認をすれば、不信任案がなくても解散できる天皇は政治の権限を持たない(4条)ので、決めるのは内閣=首相
不信任案の可決を受けた解散は、現憲法の下で4回だけ
1948年12月なれあい解散(吉田内閣)現憲法の下で初めての解散。与野党が示し合わせて不信任案を可決した
1953年3月バカヤロー解散(吉田内閣)国会での首相の失言をきっかけに、不信任案が可決された
1980年5月ハプニング解散(大平内閣)与党の一部が採決を欠席し、予想外に不信任案が可決された
1993年6月うそつき解散(宮沢内閣)政治改革をめぐって与党の一部が賛成に回り、不信任案が可決された
図3:第3文の「不信任案が可決された場合の解散を想定している」は「69条の解散」、「実際の解散のほとんどは…第7条を根拠」は「7条の解散」の道です。
Q4抜き打ち解散と苫米地事件——最高裁は「判断しない」と判断した
7条だけを根拠にした初めての解散は、1952年8月28日、吉田茂内閣による解散です。首相は「任期いっぱい政権を担う」と言いながら、ひそかに準備を進め、党内の反対派の準備が整わないうちに解散しました。不意を突いたので、「抜き打ち解散」と呼ばれます。インドネシア語では pembubaran secara mendadak(突然の解散)と、意味で訳せます。
この解散で職を失った野党の議員、苫米地義三氏が、「解散は憲法違反で無効だ」として裁判を起こしました。任期満了までの議員の地位の確認と、その間の歳費(議員の給料)を求める訴えです。インドネシア語では、このような民事の訴えを gugatan と言います。
1953年、東京地裁は苫米地氏の訴えを認めました。閣議の手続きに不備があり、内閣の「助言」がそろっていなかった、という理由です。しかし1954年、東京高裁は判断を覆します。そして1960年6月8日、最高裁大法廷は、「高度に政治性のある国家行為」は、法律上の判断ができる場合でも裁判所の審査権の外にあるとして、解散が有効かどうかの判断に踏み込まずに、訴えを退けました。この考え方を統治行為論と言います。
これで、「裁判所は解散の有効・無効を判断しない」という形が固まり、7条解散の慣行が根づいていきました。記事の第5文の「この慣行が定着した背景」と、第6文の「司法審査の対象外」は、この判決のことです。裁判所が国の行為を審査することを、インドネシア語で pengujian yudisial(judicial review)と言います(図4)。
抜き打ち解散から最高裁判決まで——苫米地事件
解散で議員の職を失った苫米地義三氏が、「解散は憲法違反で無効だ」として、任期満了までの議員の地位の確認と歳費(議員の給料)を求めた裁判です。
1952年8月28日抜き打ち解散(吉田内閣)不信任案なしに、7条だけを根拠にした初めての解散。首相は「任期いっぱい政権を担う」と言いながら、ひそかに準備を進めた
1953年10月19日東京地裁:苫米地氏が勝訴持ち回りの閣議に全閣僚の署名がそろっておらず、内閣の「助言」の要件を欠く、と判断
1954年9月22日東京高裁:逆転、苫米地氏が敗訴解散の日までに閣僚の署名がそろい、「助言と承認」は整っていた、と判断
1960年6月8日最高裁大法廷:上告を退ける解散は「極めて政治性の高い」行為で、有効か無効かを審査することは、裁判所の権限の外にある(統治行為論)
直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときはたとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であつても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にあり …
最高裁大法廷判決(1960年6月8日)より。判断は「主権者たる国民」に政治的な責任を負う政府・国会に任され、最終的には国民の政治判断に委ねられる、と続く
図4:第5文の「抜き打ち解散をめぐる訴訟」はこの裁判、第6文の「司法審査の対象外だとして、解散が有効かどうかの判断を避けた」は、いちばん下の最高裁の判断です。
Q5インドネシアの大統領は、なぜ国会を解散できないの?——1960年と2001年
日本や英国は議院内閣制(sistem parlementer)です。国民が議会を選び、首相は議会の信任をもとに選ばれます。内閣は議会の信任があって成り立つので、議会は不信任で内閣を倒すことができ、内閣は解散で対抗できます。一方、インドネシアは大統領制(sistem presidensial)です。大統領と国会(DPR)を、国民が別々に選びます。どちらも任期は5年。大統領は国会を解散できず、国会も不信任で大統領を倒すことはできません。インドネシアに首相はいません(図5)。
ただ、最初からそうだったわけではありません。1950年代のインドネシアは議院内閣制で、1955年に初めての総選挙が行われました。新しい憲法をつくる制憲議会の議論がまとまらないなか、スカルノ大統領は1959年7月5日の大統領布告で制憲議会を解散し、大統領の力が強い1945年憲法に戻します。そして1960年、国会(DPR)が政府の予算案を承認しなかったため、スカルノは DPR の活動を止め、議員をすべて大統領が任命する「ゴトン・ロヨン国会」(DPR-GR)を置きました。記事の第8文の「予算案を否決した国会を解散し」です。
2001年には、アブドゥルラフマン・ワヒド大統領(愛称グス・ドゥル)と国会の対立が深まりました。国会は、政府機関の資金をめぐる疑惑などで大統領の責任を追及し、国民協議会(MPR)に特別会議の開催を求めます。7月23日の未明、ワヒドは布告(Maklumat)を出し、MPR と DPR の凍結、1年以内の総選挙などを宣言しました(テレビで発表)。しかし最高裁長官は、布告には法的な効力がないとの見解を示し、MPR は同じ日の特別会議で布告を退けて、ワヒドを解任。副大統領のメガワティが大統領になりました。インドネシア語では、凍結は pembekuan、罷免は pemakzulan(罷免される=dimakzulkan)です。
この2つの経験を踏まえ、同じ2001年の11月9日、MPR は憲法の第3次改正で第7C条を加えました。「大統領は、国民議会(DPR)を凍結し、または解散することはできない」。記事の第9文の「憲法改正によって解散の禁止が明文化された」は、この条文です。インドネシアの憲法改正は、1999〜2002年の4回のamendemen(改正)で行われました。なお、MPR は2024年9月、ワヒドを解任した決定はもう効力を持たないと表明し、名誉を回復しています(図6)。
議院内閣制と大統領制——解散は、どちらの道具か
訳例は、インドネシアの「大統領制」を sistem perdana menteri(首相の制度)と訳していました。首相の制度は、「議院内閣制」のほうに近いしくみです。
議院内閣制sistem parlementer(日本・英国・ドイツなど)行政の長議会の信任をもとに選ばれる首相成り立ち内閣は、議会の信任があって続く議会 → 内閣不信任で、内閣を倒せる内閣 → 議会解散で、対抗できる解散は、議会と内閣が対立したとき、国民に判断を仰ぐための道具
大統領制sistem presidensial(インドネシア・米国など)行政の長国民が選ぶ大統領(インドネシアは直接選挙)成り立ち大統領も議会も、任期が決まっている(インドネシアは5年)議会 → 大統領不信任では倒せない(重大な違反のときの罷免だけ)大統領 → 議会解散できない大統領も議会も国民が選ぶので、不信任や解散で相手を辞めさせる道具は持たない
図5:第7文の「大統領制をとるインドネシア」は「大統領制」のカードです。訳例の sistem perdana menteri(首相の制度)は、「議院内閣制」のカードに近いしくみを指してしまいます。
インドネシアで、国会を「解散」「凍結」しようとした大統領
1960年のスカルノと、2001年のワヒド。2つの経験が、憲法の第7C条につながりました。
1955年初めての総選挙議院内閣制のもとで、国会(DPR)と、新しい憲法をつくる制憲議会を選ぶ
1959年7月5日大統領布告制憲議会を解散し、1945年憲法に戻す。大統領の力が強い「指導される民主主義」の時代へ
1960年3月スカルノが DPR の活動を止める政府の1960年予算案を DPR が承認しなかったため。大統領決定(Penpres)1960年第3号は3月5日から効力。代わりに、議員を大統領が任命するゴトン・ロヨン国会(DPR-GR)を置いた
2001年2月・4月DPR が大統領に覚書食糧調達庁(Bulog)の資金などをめぐる疑惑で、ワヒド大統領の責任を追及(2月1日・4月30日)
2001年7月23日ワヒドの布告と、その日の解任未明のテレビで、MPR と DPR の凍結・1年以内の総選挙・ゴルカル党の凍結を宣言。最高裁長官は、布告に法的な効力はないとの見解。同じ日、MPR の特別会議が布告を退け、ワヒドを解任。メガワティが大統領に
2001年11月9日憲法の第3次改正で、第7C条大統領による DPR の凍結・解散を禁じる。大統領の罷免の手続き(第7A・7B条)も定めた
Presiden tidak dapat membekukan dan/atau membubarkan Dewan Perwakilan Rakyat.
1945年憲法 第7C条。「大統領は、国民議会(DPR)を凍結し、または解散することはできない」。tidak dapat(〜できない)、membekukan(凍結する)、membubarkan(解散する)は、この記事の第7・8・9文の語そのものです
図6:第8文の「予算案を否決した国会を解散し」は1960年、「国会の凍結を宣言したが、その直後に罷免された」は2001年7月23日。第9文の「憲法改正によって解散の禁止が明文化された」が、いちばん下の第7C条です。
Q6英国は、なぜ解散権を「縛って、戻した」の?——各国の模索
英国は、議院内閣制のふるさとです。議会の解散は、もともと国王の権限(大権)で、実際には首相の求めで行われます。首相が自分に有利な時期を選んで選挙ができる、という点は、日本と同じです。
2010年の選挙では、どの党も過半数に届かず、保守党と自由民主党が連立を組みました。連立を安定させるため、2011年に固定任期議会法をつくります。選挙は5年ごとに決まった時期に行い、早く選挙をするには、下院の3分の2の賛成か、不信任の可決が必要、というルールです。首相の解散権を、法律で縛ったわけです。
ところが、2017年にはメイ首相が下院の3分の2の賛成を得て、早期の選挙を行いました。2019年には逆に、ジョンソン首相の早期選挙の提案が3回とも3分の2に届かず、そのためだけの特別な法律をつくって選挙をしています。結局、2022年3月の議会解散・召集法で固定任期議会法は廃止され、首相の求めで解散できる元のしくみに戻りました。同じ法律は、解散の判断を裁判所で争うことはできない、とも定めています。記事の第11文の「いったん法律で縛りながら、のちに元に戻した」は、この11年のことです(図7)。
同じ議院内閣制でも、ドイツでは、首相が信任投票で敗れたときなどに限って、大統領が議会を解散できます。2024年12月にも、ショルツ首相が信任投票で敗れたのを受けて、議会が解散されました。解散を首相の自由にするか、縛るか。記事の第10文が言うように、解散権は民意を問い直す手段にも、政権を延命させる道具にもなりうるため、各国の模索は今も続いています(図8)。
英国——解散権を「縛って、戻した」11年
英国の解散は、もともと国王の大権で、実際には首相の求めで行われます。2011年にそれを法律で縛り、2022年に元に戻しました。
2010年5月どの党も過半数に届かず、保守党と自由民主党が連立連立の合意に、議会の任期を固定することが入っていた
2011年9月15日固定任期議会法選挙は5年ごと。早く選挙をするには、下院の3分の2の賛成か、不信任の可決が要る=首相の解散権を縛る
2017年4月19日メイ首相、3分の2を得て早期選挙へ下院の採決は522対13。6月8日に選挙
2019年9〜10月ジョンソン首相の早期選挙の動議、3回とも3分の2に届かず特別の法律をつくって、12月12日に選挙
2022年3月24日議会解散・召集法固定任期議会法を廃止し、首相の求めで解散できる元のしくみに戻す。解散の判断は、裁判所で争えない(第3条)
2024年5月スナク首相が、この法律で初めての解散5月22日に発表し、7月4日に選挙
図7:第11文の「いったん法律で縛りながら、のちに元に戻した」は、2011年から2022年までの11年のことです。
国ごとの解散のルール——同じ議院内閣制でも違う
記事の最後の「各国の模索は今も続いている」は、この違いのことです。
| 国 | しくみ | 解散を決める人 | 解散できるとき |
|---|
| 日本 | 議院内閣制 | 内閣(実際には首相) | 不信任案が可決されたとき(69条)。7条を根拠に、ほぼいつでも |
| 英国 | 議院内閣制 | 首相の求めで国王 | いつでも(2011〜22年は法律で制限)。議会は5年で自動的に解散 |
| ドイツ | 議院内閣制 | 連邦大統領 | 首相が信任投票で敗れたときなどに限る。2024年12月、この形で解散 |
| インドネシア | 大統領制 | —— | 解散できない(憲法第7C条) |
図8:第10・11文の「民意を問い直す手段」「政権の延命の道具」「各国の模索」は、この違いの背景にある考え方です。
STEP 1原文を読んで、インドネシア語に訳す
目安は40分(辞書なし)。見出しも訳します。番号は、あとの添削と対応しています。
Terjemahkan artikel berikut ke dalam bahasa Indonesia.
解散権という「伝家の宝刀」
1今年初め、高市早苗首相は衆議院を解散し、総選挙で自民党は単独で3分の2を超える議席を得た。2野党は党利党略の解散だと批判したが、首相の判断そのものが違法とされることはない。
3憲法は、内閣不信任案が可決された場合の解散を想定しているが、実際の解散のほとんどは、天皇の国事行為を定めた第7条を根拠としている。4内閣の「助言と承認」さえあれば、首相は自らに有利な時期を選んで解散に踏み切ることができるわけだ。5この慣行が定着した背景には、吉田茂内閣による抜き打ち解散をめぐる訴訟がある。6最高裁は、高度に政治性のある国家行為は司法審査の対象外だとして、解散が有効かどうかの判断を避けた。
7一方、大統領制をとるインドネシアでは、大統領が国会を解散することはできない。8かつてスカルノ大統領は予算案を否決した国会を解散し、アブドゥルラフマン・ワヒド大統領も国会の凍結を宣言したが、その直後に罷免された。9こうした経験も踏まえ、憲法改正によって解散の禁止が明文化されたのである。
10議院内閣制における解散権は、民意を問い直す手段とされる一方、政権の延命の道具にもなりかねない。11英国が首相の解散権をいったん法律で縛りながら、のちに元に戻したように、各国の模索は今も続いている。
Disadur dari berbagai sumber
STEP 2訳例に、赤ペンをまとめて入れる
この記事を訳した例に、赤ペンをまとめて入れました。目安は38点/100。senjata pamungkas(伝家の宝刀)、Asal ada(〜さえあれば)、pembubaran secara mendadak(抜き打ち解散)、Mengingat(〜を踏まえ)、sempat … seperti sediakala(いったん…元どおりに)は、見事に訳せています。崩れたのは、制度の定訳と、範囲・否定を表す小さな語、そして辞書にない語の形です。まずは全体を眺めて、どんな間違いが多いかを見てください。
波線=直すところ∧=訳が抜けているところ①=下の一覧の番号(文ごと)
訳例(添削前)
“Senjata Pamungkas” yang namanya① Hak Bubar②
1Pada awal tahun ini, Perdana Menteri Sanae Takaichi membubarkan majelis rendah① dan partai demokrat dan liberti② memperoleh dua per tiga atau lebih③∧④∧⑤ di⑥ pemilu. 2Partai oposit① mengkritik kebubaran② yang menguntungkan partai dan strategis③, tetapi keputusan perdana menteri sendiri tidak dianggap bersalah④.
3Konstitusi mengantisipasi① pembubaran apabila usulan tidak percaya kabinet② disetujui, tetapi sebagian besar pembubaran∧③ berpacu④ pada pasal 7⑤ yang menetapkan⑥ tindakan nasional kaisar⑦. 4∧①Asal ada “nasihat dan persetujuan” dari kabinet, perdana menteri dapat melangkah pembubaran dengan memilih② masa③∧④ menguntungkan diri sendiri∧⑤. 5Di latar belakang①∧② praktik tersebut, terdapat pengaduan③ terkait pembubaran secara mendadak oleh kabinet④ Shigeru Yoshida. 6Mahkamah Agung menghindari keputusan apakah pembubaran tersebut sah atau tidak① karena tindakan nasional② yang bersifat politik yang tinggi③ merupakan④ peninjauan hukum⑤.
7Di sisi lain, di Indonesia yang menerapkan① sistem perdana menteri②, presiden tidak∧③ membubarkan parlemen④. 8Dulu, Presiden Soekarno membubarkan parlemen① yang menolak rancangan APBN∧② dan presiden③ Abdurrahman Wahid∧④ ⑤ mendeklarasi⑥ pembukuan⑦ DPR, tetapi setelah sesaat itu⑧∧⑨ dipucat⑩. 9Mengingat pengalaman seperti ini, pelarangan pembubaran① dicantum② dengan jelas③ oleh④ revisi UU⑤,⑥
10Hak pembubaran dalam sistem kabinet pejabat① dianggap sebagai langkah② yang mempersoal opini publik③, namun,④ ∧⑤sisi lain, hal tersebut⑥∧⑦ dapat menjadi alat untuk memperpanjang∧⑧ pemerintahan. 11Berbagai negara masih dalam tahap pertimbangan①, seperti Inggris yang sempat membelenggu② hak pembubaran∧③ perdana menteri dengan hukum④∧⑤ mengembalikannya seperti sediakala.
赤ペン一覧(66か所)
それぞれ、訳例の語と何がいけないかを示し、続けて直しを書いています。くわしい理由は、STEP 3 で1文ずつ説明します。
訳例の語と、何がいけないか直し
見出し赤ペン2か所
①
yang namanya話し言葉。「〜という名の」は
Bernama
②
Hak Bubarbubar は自動詞。「自分が解散する権利」になる
Hak Membubarkan Parlemen
1第1文赤ペン6か所
①
majelis rendah機関名は大文字。文の切れ目の dan の前にコンマ
Majelis Rendah,
②
partai demokrat dan libertiliberti という語はない。2つの党に読める
Partai Demokrat Liberal (LDP)
③
dua per tiga atau lebih「以上」ではなく「超える」。pertiga は続けて書く
lebih dari dua pertiga
⑤
∧ 訳が抜けている「単独で」がない
dengan kekuatannya sendiri
2第2文赤ペン4か所
②
kebubaran辞書にない形。解散は pe-…-an
pembubaran itu
③
yang menguntungkan partai dan strategisstrategis はほめ言葉。批判の中身は sebagai で
sebagai langkah yang semata-mata didasari kepentingan partai
④
bersalah人が「有罪だ」。違法は
melanggar hukum
3第3文赤ペン7か所
①
mengantisipasi「備える」。想定する(定める)は
memang mengandaikan
②
usulan tidak percaya kabinet不信任案の定訳
mosi tidak percaya terhadap kabinet
③
∧ 訳が抜けている「実際の」がない
yang pernah terjadi
④
berpacu「競走する」。根拠とするは
mengacu
⑤
pasal 7条文の番号は大文字。補足の yang の前にコンマ
Pasal 7,
⑥
menetapkan「決定する」。条文が定めるは
mengatur
⑦
tindakan nasional kaisar国事行為の定訳。Kaisar は大文字
tindakan kenegaraan Kaisar
4第4文赤ペン5か所
①
∧ 訳が抜けている「わけだ」がない。文頭に
Artinya, asal …
②
melangkah pembubaran dengan memilihmelangkah は目的語を取れない
memilih
③
masa「時代・期間」。時期(タイミング)は
waktu
④
∧ 訳が抜けている名詞の説明をつなぐ yang がない
yang
⑤
∧ 訳が抜けている「解散に踏み切る」を目的の形で
untuk membubarkan Majelis Rendah
5第5文赤ペン4か所
①
Di latar belakang日本語の直訳。「〜の背景には」は
Di balik
②
∧ 訳が抜けている「定着した」がない
mengakarnya
③
pengaduan役所への苦情・告発。訴訟は
gugatan
④
kabinet特定の内閣の名前は大文字
Kabinet
6第6文赤ペン5か所
①
keputusan apakah pembubaran tersebut sah atau tidak「〜かどうかの判断」は名詞の形で
penilaian atas sah atau tidaknya pembubaran tersebut
②
nasional「全国的な」。国家行為は
negara
③
bersifat politik yang tinggiyang の重ね。程度は前から sangat で
sangat bersifat politis
④
merupakan「〜である」で意味が逆に。「対象外」がない
berada di luar jangkauan
⑤
peninjauan hukum司法審査の定訳
pengujian yudisial
7第7文赤ペン4か所
①
menerapkan制度を「とる」は
menganut
②
sistem perdana menteri首相の制度。逆のしくみになる
sistem presidensial
③
∧ 訳が抜けている「できない」の dapat がない
dapat
8第8文赤ペン10か所
②
∧ 訳が抜けている主語の違う2文をつなぐ dan の前のコンマ
,
③
presiden名前の前の肩書きは大文字
Presiden
④
∧ 訳が抜けている「ワヒド大統領も」の「も」がない
pun
⑤
空白が2つWahid と mendeklarasi の間
(空白は1つ)
⑥
mendeklarasiこの形はない
mengumumkan
⑦
pembukuan「簿記」。凍結は
pembekuan
⑧
setelah sesaat itu語順が崩れた
sesaat setelah itu
⑨
∧ 訳が抜けている罷免された人(主語)がない
ia
⑩
dipucat辞書にない語。罷免されるは
dimakzulkan
9第9文赤ペン6か所
①
pelarangan pembubaran「禁止する手続き」。決まりとしての禁止は
larangan membubarkan DPR
②
dicantum「記載する」は -kan が要る
dicantumkan
③
dengan jelas明文化は
secara tegas
④
oleholeh は行為者。手段は
melalui
⑤
revisi UUUU は法律。憲法改正は
amendemen UUD 1945
10第10文赤ペン8か所
①
sistem kabinet pejabat議院内閣制の定訳
sistem parlementer
②
langkah「措置・一歩」。手段は
sarana
③
yang mempersoal opini publik-kan が抜け、直しても「世論を問題視する」
untuk kembali meminta mandat rakyat
⑤
∧ 訳が抜けているsisi lain の前の di がない
di
⑥
hal tersebut何を指すかがぼやける
hak tersebut
⑦
∧ 訳が抜けている「道具にも」の「も」がない
juga
⑧
∧ 訳が抜けている「延命」の「命」がない
umur
11第11文赤ペン5か所
①
dalam tahap pertimbangan「検討の段階」。模索は
mencari bentuk yang tepat
②
membelenggu「足かせをはめる」。縛る(制限する)は
membatasi
③
∧ 訳が抜けている「首相を解散する権利」とも読める
oleh
④
dengan hukumhukum は法全体。法律は
melalui undang-undang
⑤
∧ 訳が抜けている2つの動詞の間のつなぎ(のちに)がない
, tetapi kemudian
38点の内訳——逆になった2文と、辞書にない語
話の流れ(日本の解散 → 7条と苫米地事件 → インドネシア → 各国の模索)はつかめています。点を落としたのは、制度の名前と、範囲・否定を表す小さな語、そして辞書にない語の形です。
正確さ意味が逆になった2文——「対象外」が抜けた第6文(merupakan peninjauan hukum)と、大統領制を sistem perdana menteri とした第7文/「単独で」「議席」(第1文)、「実際の」(第3文)、「定着した」(第5文)、「も」と主語(第8文)、「のちに」(第11文)の抜け
21/50
自然さ目的語を取れない melangkah(第4文)/Di latar belakang の直訳(第5文)/yang の重ね(第6文)/文の途中の namun(第10文)/2つの動詞をつなぎの語なしで並べた第11文
11/30
語彙・表記辞書の形と違う語(oposit・kebubaran・liberti・mendeklarasi・dicantum・mempersoal・dipucat)と、別の語になった語(berpacu・pembukuan)/機関名・肩書きの大文字(Majelis Rendah・Pasal 7・Kabinet・Presiden)/文末のコンマ・2つ続いた空白
6/20
良い点:senjata pamungkas(伝家の宝刀)、Asal ada(〜さえあれば)、pembubaran secara mendadak(抜き打ち解散)、Mengingat(〜を踏まえ)、sempat … seperti sediakala(いったん…元どおりに)、dianggap sebagai(〜とされる)は、そのまま使える訳し方です
図9:失点の半分近くは正確さです。ただ、その多くは「定訳を知っているか」と「1語の抜け」なので、見直しで取り返せる失点でもあります。
大きく削られた3つの型
①意味が逆になった2文——第6文は「対象外」が抜けて merupakan peninjauan hukum(司法審査である)に、第7文は大統領制が sistem perdana menteri(首相の制度)になり、「できない」の dapat も抜けて「解散しない」になりました(図10)。
②制度・機関の名前を、字面で組み立てた——不信任案を usulan(提案)、国事行為を tindakan nasional(全国的な行為)、訴訟を pengaduan(苦情)、議院内閣制を sistem kabinet pejabat、憲法改正を revisi UU(法律の見直し)。制度の記事は、定訳を知っているかどうかで大きく差がつきます(図11)。
③辞書の形と違う語と、形の似た別の語——oposit・kebubaran・liberti・mendeklarasi・dicantum・mempersoal・dipucat は辞書の形と違う語、berpacu(競走する)と pembukuan(簿記)は、辞書にあるけれど別の意味の語です(図12)。
意味が逆になった2つの文——1語の抜けと、制度の取り違え
どちらも、文の形は整っていて読めてしまうのが、やっかいな点です。原文と照らし合わせて、初めて逆だと気づきます。
第6文:「司法審査の対象外」
✕ 訳例(第6文)tindakan nasional … merupakan peninjauan hukum=国家行為は、司法審査である「対象外」が抜け、merupakan(〜である)でイコールに結んだ。最高裁の判断と正反対
◯ 修正案tindakan negara … berada di luar jangkauan pengujian yudisial=国家行為は、司法審査の及ぶ範囲の外にあるberada di luar(〜の外にある)で、範囲の外を表す
第7文:「大統領制をとる」「解散することはできない」
✕ 訳例(第7文)di Indonesia yang menerapkan sistem perdana menteri, presiden tidak membubarkan parlemen=首相の制度をとるインドネシアでは、大統領は国会を解散しない制度が逆になり、dapat(できる)が抜けて「解散しない」に
◯ 修正案di Indonesia yang menganut sistem presidensial, presiden tidak dapat membubarkan DPR=大統領制をとるインドネシアでは、大統領は DPR を解散できない制度の名前と、tidak dapat(〜できない)
図10:訳し終えたら、否定(tidak・bukan)・可能(dapat)・範囲(di luar)の語、そして制度の名前を、原文と1つずつ照らし合わせます。
制度・機関の名前——定訳が要る10語
漢字を1字ずつインドネシア語に置き換えると、逆の制度や、別の手続きの名前ができあがります。制度の名前は組み立てずに、決まった訳を使います。
日本語訳例定訳
解散権見出し
hak bubar自分が解散する権利
hak membubarkan parlemenhak pembubaran とも
内閣不信任案第3文
usulan tidak percaya kabinet不信任の「提案」
mosi tidak percaya terhadap kabinetmosi=議会の動議
天皇の国事行為第3文
tindakan nasional kaisar全国的な行為
tindakan kenegaraan Kaisarkenegaraan=国家の
訴訟第5文
pengaduan苦情・告発
gugatan民事の訴え
司法審査第6文
peninjauan hukum法的な見直し
pengujian yudisialjudicial review
大統領制第7文
sistem perdana menteri首相の制度(逆)
sistem presidensialとる=menganut
国会(インドネシアの)第7・8文
parlemen議会一般
DPRDewan Perwakilan Rakyat
凍結/罷免第8文
pembukuan/dipucat簿記/(語がない)
pembekuan/dimakzulkanbeku=凍る
憲法改正第9文
revisi UU法律の見直し
amendemen UUD 1945UUD=憲法
議院内閣制第10文
sistem kabinet pejabat役人の内閣制度
sistem parlementerparlemen=議会
図11:制度の名前は、漢字を見て組み立てると、まず外れます。訳す前に、原文の制度の名前に印をつけ、知っている定訳を思い出します。
辞書の形と違う語・別の語になった語——9つ
語彙・表記の失点の多くは、ここから来ています。1枚目は辞書の形と違う語、2枚目は辞書にあるけれど、意味がまったく違う語です。
辞書の形と違う語——7つ-kan の抜け(dicantum・mempersoal・mendeklarasi)、作れない ke-…-an(kebubaran)、辞書にない語(oposit・liberti・dipucat)oposit→oposisi野党
kebubaran→pembubaran解散
liberti→liberal自由主義の
mendeklarasi→mendeklarasikan宣言する
dicantum→dicantumkan記載される
mempersoal→mempersoalkan問題視する
dipucat→dimakzulkan罷免される
辞書にあるが、別の意味——2つ形が似ていて、まったく別の語になったもの。辞書にある語なので、見直しで見落としやすいberpacu競走する→mengacu (pada)〜を根拠とする
pembukuan簿記→pembekuan凍結
図12:「辞書にあるが、別の意味」の2つのほうが、見落としやすい誤りです。自信のない語は、辞書の見出しの形(語根+接辞)を思い浮かべて確かめます。
この文章の「わな」——訳しにくい表現は、どこで取れたか
日本語の言い回しや、定訳の要る語のうち、訳し方に注意が要るものを並べました。◯=取れた、△=一部は取れた、✕=崩れた。
◯ 取れた 0△ 一部は取れた 7✕ 崩れた 6
表現文結果正しい形・コメント
単独で/3分の2を超える議席第1文✕dengan kekuatannya sendiri・lebih dari dua pertiga kursi(「単独で」と「議席」が抜けた)
〜そのもの/〜とされることはない第2文△sendiri と tidak dianggap は◯。違法は bersalah ではなく melanggar hukum
内閣不信任案第3文✕mosi tidak percaya terhadap kabinet(可決=disetujui は◯)
天皇の国事行為第3文✕tindakan kenegaraan Kaisar(nasional は「全国的な」)
〜さえあれば/〜わけだ・踏み切る第4文△Asal ada は◯。「わけだ」は Artinya,、「踏み切る」は untuk membubarkan …
〜の背景には第5文△melatarbelakangi の向きの誤りは避けた。Di balik mengakarnya …, terdapat …
抜き打ち解散/〜をめぐる訴訟第5文△secara mendadak と terkait は◯。訴訟は gugatan
司法審査の対象外だとして第6文✕berada di luar jangkauan pengujian yudisial(merupakan で意味が逆に)
大統領制をとる/〜できない第7文✕menganut sistem presidensial・tidak dapat(逆の制度と「しない」に)
凍結・罷免・〜も第8文✕pembekuan・dimakzulkan・pun(主語の ia も)
〜を踏まえ/明文化第9文△Mengingat は◯。dicantumkan secara tegas melalui amendemen UUD 1945
〜とされる一方/〜かねない第10文△dianggap sebagai と dapat は◯。民意を問い直すは kembali meminta mandat rakyat
いったん〜ながら、のちに第11文△sempat と seperti sediakala は◯。tetapi kemudian が抜けた
図13:言い回しのわな(〜さえあれば・いったん〜)はどれも一部が取れていて(△)、✕になったのは制度の定訳と、範囲・否定の語でした。
STEP 31文ずつ、訳し直す
ここからは見出しと11の文を1つずつ、原文 → 訳例(添削前)→ 修正案 → ここが良い → 直すところの順に並べています。赤い丸数字は、STEP 2 の一覧と同じ番号(文ごと)です。修正案のマーカーは、赤ペンを受けて書き換えた箇所です。
見出し赤ペン2か所
原文
解散権という「伝家の宝刀」
訳例(添削前)
“Senjata Pamungkas” yang namanya① Hak Bubar②
修正案
“Senjata Pamungkas” Bernama① Hak Membubarkan Parlemen②
ここが良い
「伝家の宝刀」を senjata pamungkas(最後の切り札となる武器)と訳したのは、見事な選択です。日本語の慣用句を1語ずつ置き換えず(pedang pusaka keluarga などとせず)、インドネシア語で同じ働きをする決まった言い方に置き換えています。引用符で囲んで、たとえであることを示したのも正確です。
直すところ
①yang namanya は話し言葉です。「〜という名の」は、書き言葉では bernama(または yang disebut)。見出しでは語の頭を大文字にして、Bernama とします。
②bubar は「(集まりが)散会する・(団体が)解散する」という自動詞です。hak bubar だと「自分たちが解散する権利」になり、首相が議会を解散させる権利になりません。他動詞の membubarkan(〜を解散する)を使い、何を解散するのかも添えて Hak Membubarkan Parlemen(議会を解散する権利)とします。名詞の形なら hak pembubaran parlemen です(図14)。
bubar・membubarkan・pembubaran——解散の語のなかま
語根の bubar は自動詞です。「〜を解散する」には -kan を、名詞には pe-…-an をつけます。
| 形 | 種類 | 意味 | 例 |
|---|
| bubar | 自動詞 | (集まりが)散会する・(団体が)解散する | Rapat itu bubar pukul lima.(会議は5時に散会した) |
| membubarkan | 他動詞 | 〜を解散する | Perdana menteri membubarkan Majelis Rendah.(首相が衆議院を解散した) |
| dibubarkan | 受け身 | 解散される | Majelis Rendah dibubarkan pada 23 Januari.(衆議院は1月23日に解散された) |
| pembubaran | 名詞 | 解散(すること) | pembubaran secara mendadak(抜き打ち解散) |
| hak membubarkan/hak pembubaran | 名詞句 | 解散権 | hak pembubaran oleh perdana menteri(首相の解散権) |
kebubaran | ✕ | 辞書にない形 | ke-…-an は、bubar からは作れない |
図14:bubar(自動詞)→ membubarkan(他動詞)→ pembubaran(名詞)。ke-…-an の kebubaran は作れません。
第1文赤ペン6か所
原文
今年初め、高市早苗首相は衆議院を解散し、総選挙で自民党は単独で3分の2を超える議席を得た。
訳例(添削前)
Pada awal tahun ini, Perdana Menteri Sanae Takaichi membubarkan majelis rendah① dan partai demokrat dan liberti② memperoleh dua per tiga atau lebih③∧④∧⑤ di⑥ pemilu.
修正案
Pada awal tahun ini, Perdana Menteri Sanae Takaichi membubarkan Majelis Rendah,① dan Partai Demokrat Liberal (LDP)② memperoleh lebih dari dua pertiga③ kursi④ dengan kekuatannya sendiri⑤ dalam⑥ pemilu.
ここが良い
Pada awal tahun ini(今年初め)、名前の前に Perdana Menteri(首相)を置く形、membubarkan(〜を解散する)と memperoleh(得る)は、どれも正確です。「首相が解散した → 自民党が議席を得た」という文の骨組みも、原文どおりにつかめています。
直すところ
①機関の名前は大文字で書きます。日本の衆議院は Majelis Rendah(下院)です。さらに、ここでは dan の前にコンマを入れて、文の切れ目を示します。コンマがないと、membubarkan Majelis Rendah dan Partai … が「衆議院と自民党を解散した」とも読めてしまいます。
②自民党は Partai Demokrat Liberal(LDP)。liberti という語はインドネシア語にありません(「自由主義の」は liberal)。demokrat dan liberti と dan を挟むと、「民主党と自由党」という2つの党に読めます。政党の名前は大文字で書き、初めて出すところで略称の LDP を添えます。
③「3分の2を超える」は lebih dari dua pertiga。atau lebih は「〜以上」で、ちょうど3分の2も含んでしまいます。また、分数の per は後ろの数と続けて、dua pertiga(3分の2)と書きます(dua per tiga と分けない)。
④「議席」の kursi が抜けました。dua pertiga だけでは、何の3分の2なのかがわかりません。議席は kursi(いす)と言います。
⑤「単独で」が抜けました。連立を組む党の分を足さずに、自民党だけで3分の2を超えたことが、この文のいちばん大事な点です(Q2)。dengan kekuatannya sendiri(自分の力だけで)か、tanpa mitra koalisi(連立相手なしで)と訳します。
⑥選挙のような「出来事の中で」は dalam。di pemilu も報道で見かけますが、書き言葉では dalam pemilu とします。
人名の順:Sanae Takaichi(名・姓)は、インドネシアの報道でも使われる順なので、そのままでかまいません。日本の順に合わせて Takaichi Sanae としてもよく、1つの文章の中ではどちらかにそろえます(第5文の Shigeru Yoshida も同じ)。
第2文赤ペン4か所
原文
野党は党利党略の解散だと批判したが、首相の判断そのものが違法とされることはない。
訳例(添削前)
Partai oposit① mengkritik kebubaran② yang menguntungkan partai dan strategis③, tetapi keputusan perdana menteri sendiri tidak dianggap bersalah④.
修正案
Partai oposisi① mengkritik pembubaran itu② sebagai langkah yang semata-mata didasari kepentingan partai③, tetapi keputusan perdana menteri itu sendiri tidak dianggap melanggar hukum④.
ここが良い
tetapi(〜が)で2つの内容をつないだ組み立てと、tidak dianggap(〜とされない)は正確です。「そのもの」を sendiri で訳そうとしたのも、良い判断です。
直すところ
①「野党」は oposisi。oposit という語はありません。partai oposisi(野党)か、野党全体をまとめて言うなら kubu oposisi(野党陣営)です。
②「解散」は pembubaran。ke-…-an の形の kebubaran は、辞書にありません。他動詞の membubarkan(〜を解散する)からつくる名詞は、pe-…-an の pembubaran です(図14)。ここでは今年の解散を指すので、itu を添えて pembubaran itu とします。
③「党利党略」は、自分の党の得だけを考えたやり方のことです。strategis(戦略的な)はほめ言葉なので、批判の文に入ると意味がずれます。「〜だと批判する」は mengkritik X sebagai …(X を〜として批判する)。党利党略は langkah yang semata-mata didasari kepentingan partai(党の利益だけにもとづく措置)と言い表します。
④bersalah は「(人が)罪を犯した・有罪だ」です。首相の判断(keputusan)は人ではないので、bersalah とは言いません。「違法だ」は melanggar hukum(法に反する)。裁判で「無効」とされる、と言うなら tidak sah です。
(番号なしのマーカー)itu を添えて keputusan perdana menteri itu sendiri とすると、sendiri が「首相本人の」ではなく「判断そのもの」にかかることが、はっきりします。
ここから先は会員限定です
第3〜11文の添削と、模範訳(全文)をまとめて収録しています。あわせて収録しているのは次の内容です。
- 不信任案・国事行為の定訳と「実際の」——mosi tidak percaya・tindakan kenegaraan・yang pernah terjadi(第3文)
- 「わけだ」と「踏み切る」——Artinya と untuk membubarkan(第4文)
- 「背景には」と「訴訟」——Di balik … mengakarnya・gugatan(第5文)
- 「対象外」が抜けて意味が逆に——merupakan と berada di luar jangkauan(第6文・図15)
- 大統領制は sistem presidensial——dapat の抜けと DPR(第7文)
- 「凍結」「罷免」「も」と主語——pembekuan・dimakzulkan・pun・ia(第8文)
- 明文化と憲法改正——dicantumkan secara tegas melalui amendemen UUD 1945(第9文)
- 「民意を問い直す」と「延命」(第10文)、「いったん〜のちに」(第11文・図16)
- 表記の見直し13と、見直しの5分(図17)
- 模範訳(全文)、重要語彙18、背景メモ、次に狙う3点