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日本語の「せざるを得ない」をインドネシア語でどう受けるか|経済安保インタビューを、婉曲・漢数字・抽象名詞で訳し切る

日→イ JAPANESIA

「せざるを得ない」「否めない」「余儀なくされる」——日本語の官僚的な言い回しを、インドネシア語でどう受け止めるか

今日の課題はインタビュー記事です。経済安全保障と輸出管理をめぐる一問一答。ダッシュで始まる質問鉤括弧の中の談話、そして締めの地の文——3つの文体が混ざっています
難所は3つ。①漢数字(九十日・六割・四割・十数件)、②官僚的な婉曲(せざるを得ない/否めない/余儀なくされる/目に見えていた)、③抽象名詞(自己目的化・覚悟・代償・抑止・線引き)。
どれも日本語では1語なのに、インドネシア語では構文ごと組み直す必要があります。terpaksamau tidak mautidak dapat dimungkiriada harga yang harus dibayar——手札を先に持っておけば、迷わずに置けます。
図解8点と用語ポップアップ22個で、見出しから締めまで9つのかたまりに分けて訳します。

全9ブロック 図解8点 用語解説22 模範訳つき

今日のねらい:文体を切り替え、婉曲を型で受け、数字を書き換える

日本語からインドネシア語へ訳すとき、つまずく場所はだいたい決まっています。①文体 ②婉曲表現 ③数字。この3つです。

文体——インタビュー記事は、質問(ダッシュ)/談話(鉤括弧)/地の文の3層でできています。日本語では談話が「です・ます」、地の文が「だ・である」と語尾で区別されますが、インドネシア語には敬体・常体の区別がありません。では何で区別するのか——ここが今日の最初の論点です。

婉曲表現——「せざるを得ない」「否めない」「余儀なくされる」「目に見えていた」。日本語の官僚談話に必ず出る言い方です。直訳しようとすると必ず崩れますterpaksamau tidak mautidak dapat dimungkirisudah bisa diduga——対応する型を覚えて、まるごと置き換えるのが正解です。図4でまとめます。

数字——この記事には漢数字が5つ出てきます。九十日・六割・八割・四割・十数件。インドネシア語では算用数字と語をどう使い分けるかが決まっています。とくに「割」は persen に直す必要があります。図2で確認します。

進め方は①日本語を見て自分で訳す → ②1ブロックずつ、語の選び方を確かめる → ③最後に模範訳を通しで読むの順です。先に模範訳を読むと練習になりません。まずは STEP 1 からどうぞ。

訳す前の構えだけ、先に

解説に入る前に、この課題に固有の構えを3つ渡しておきます。訳語そのものには触れません。

①「主語がない日本語」を、先に補う。「人員は据え置かれたまま、対象品目だけが三年で四割増えた」——誰が据え置いたのか、誰が増やしたのかは書かれていません。日本語は主語を省けますが、インドネシア語では動詞の形を決めるために、誰の行為かを決める必要があります。行為者を書きたくないなら受動(di-)や ter- を選ぶ——その判断を、訳す前にします。

②「文の切れ目」を日本語のまま持ち込まない。談話部分は読点でどんどんつながります。「中小企業ほど社内に専門部署を置けず、外部の弁護士に頼らざるを得ず、輸出そのものを断念する例も出ている」——これは3つの内容です。インドネシア語ではセミコロンで切るか、文を分けるほうが読めます。1文を1文で返さなくて構いません

③固有名詞と役職は、先に決めてしまう。「経済産業省」「審議官」「元〜」。訳し始めてから迷うと、そこで手が止まります。省庁名は正式訳、役職は役割で置き換える——この方針だけ先に立てておきます。

それから、この記事はインタビューであって論説ではありません。書き手の主張ではなく、話し手の発言をそのまま伝えるのが役目です。だから談話の中の言いよどみや留保も、そのまま残すのが正確な訳になります。最後の地の文だけが、書き手の視点です。

STEP 1 まず自分で訳す(全9ブロック)

ブロックごとに訳してください。談話部分は、話し言葉の調子を残すことを条件にします。訳し終えてから STEP 2 へ。

「規制は目的ではない」――経済安全保障をめぐり、元審議官に聞く

課題:次の日本語をインドネシア語に訳しなさい

半導体製造装置やレアアースの輸出管理が、通商政策の枠を超えて安全保障の道具として扱われて久しい。経済産業省で許可審査を統括し、昨年退官した元審議官に聞いた。

――許可申請の処理期間が延びているとされます。

「昨年度の標準処理期間は九十日と定められていましたが、その範囲で処理できたのは全体の六割にとどまります。前年度は八割を超えていた。人員は据え置かれたまま、対象品目だけが三年で四割増えた。現場が回らなくなるのは目に見えていました」

――企業からは基準が不透明だとの声も。

「不透明にせざるを得ない面はあります。審査の線引きを細かく公表すれば、そこを迂回する手口を教えることになりかねない。ただ、それを口実に説明を怠ってきたことは否めません。中小企業ほど社内に専門部署を置けず、外部の弁護士に頼らざるを得ず、輸出そのものを断念する例も出ている。規制は手段にすぎないのに、手段が自己目的化していないか」

――同盟国と足並みはそろっていますか。

「そろっていない、というのが正直なところです。同じ品目でも国により規制の入り口が違う。多国間の調整には時間がかかり、合意の見通しは立っていません。対象を広げすぎれば供給網の再編を余儀なくされるのは自国の企業のほうだ、との指摘もある。どちらに転んでも代償は伴う。その覚悟を社会と共有できているかが、これからの課題となるでしょう」

在任中、違反を理由に行政処分が科された事例は年間十数件にすぎない。抑止が効いているとみるか、摘発が追いつかないとみるか。評価は割れたままだ。

Dikutip dari majalah Toyo Keizai, edisi 15 Agustus 2026

STEP 2 1ブロックずつ、語の選び方を確かめる

解説に入る前に、インタビュー記事の3層構造を先に押さえておきます。ここが決まらないと、文体が定まりません。

インタビュー記事は、3つの層でできています 日本語は語尾で区別しますが、インドネシア語には敬体・常体の区別がありません ① 質問 ── ダッシュで始まる 日本語:――許可申請の処理期間が延びているとされます。 インドネシア語:— Disebutkan bahwa waktu pemrosesan permohonan izin kian memanjang. ② 談話 ── 鉤括弧の中 日本語:「〜です・ます」と「〜だ」が混ざる(話し言葉だから) インドネシア語:引用符 ” ” で囲む。文体ではなく、語の選び方で話し言葉らしさを出す Jujur saja … / bukankah …? / Sudah bisa diduga … など ③ 地の文 ── 書き手の視点 日本語:「〜だ・である」。リード部分と、最後の3文 インドネシア語:引用符なし。淡々とした報告文で書く では、何で「話し言葉らしさ」を出すのか 談話で使える語 Jujur saja …(正直なところ) bukankah …?(〜ではないか) memang(たしかに)/pun(〜も) 地の文で使う語 tidak lebih dari …(〜にすぎない) Penilaian masih terbelah.(評価は割れたまま) 主語+述語で言い切る短い文

図1:インドネシア語には敬体・常体の区別がありません。だから文体差は語の選び方と文の長さで作ります。談話は少し長く、くだけた副詞を混ぜる。地の文は短く言い切る。

見出し

「規制は目的ではない」――経済安全保障をめぐり、元審議官に聞く

訳に使う語
「規制」を表す語は複数あるregulasi(規制・規律。制度としての枠組み全体)/peraturan(規則。個々の条文)/pengaturan(規律すること・取り決め)/pembatasan(制限)/kendalipengendalian(制御・管理)。
この記事の「規制」は輸出管理という制度全体を指すので regulasi が合います。個々の条文なら peraturan
見出しでの引用符日本語の鉤括弧「」は、インドネシア語では二重引用符 ” “ になります。単一引用符 ‘ ‘ は引用の中の引用に使います。
見出しに発言の一部を引く形は、インドネシアの報道でもまったく同じです:“Kami Tidak Akan Mundur”: Wawancara dengan …
「〜ではない」の否定Regulasi bukan tujuan.——tujuan(目的)は名詞なので bukantidak は動詞・形容詞を否定します。
日本語の「規制は目的ではない」は、bukan tujuan(目的ではない)/bukan tujuan itu sendiri(それ自体が目的ではない)のどちらでも訳せます。見出しは短いほうが強いので、前者を選びました。
本文の最後に menjadi tujuan pada dirinya sendiri(それ自体が目的になる)が出てきます。見出しと本文が呼応しているので、訳語をそろえておくと記事がまとまります。
「規制」。制度全体なら regulasi、個々の条文なら peraturan
aman からaman(安全な)+ke–ankeamanan(安全・治安)。keamanan ekonomi経済安全保障
近い語に keamanan nasional(国家安全保障)/ketahanan ekonomi(経済的な耐久力・強靭性)/kedaulatan ekonomi(経済主権)。ketahanantahan=耐える)はショックに耐える力を指し、keamanan とは角度が違います。
この分野の語彙pengendalian ekspor(輸出管理)/rantai pasok(供給網・サプライチェーン)/barang penggunaan ganda(デュアルユース品目)/teknologi sensitif(機微技術)/sanksi ekonomi(経済制裁)/embargodaftar hitam(ブラックリスト)/izin ekspor(輸出許可)。
インドネシアでも同じ論点が報じられます——ニッケルの輸出規制、川下化政策など。この語彙は応用が効きます。
ketahanan の広がりketahanan pangan(食料安全保障)/ketahanan energi(エネルギー安全保障)/ketahanan nasional(国家の強靭性)。
「〜安全保障」を訳すとき、keamanan と ketahanan のどちらかで迷ったら——脅威から守るなら keamanan、供給が途切れないようにするなら ketahanan と考えると選びやすくなります。
この記事の「経済安全保障」は輸出管理を安全保障の道具にするという文脈なので、keamanan ekonomialat keamanan(安全保障の道具)という言い方も本文で使えます。
「経済安全保障」。ketahanan(耐久力)とは角度が違う
mantan=元〜mantan元・前(役職・関係について)。mantan menteri(元大臣)/mantan presiden(元大統領)/mantan pacar(元恋人)。
やや古い語に bekasbekas menteri)がありますが、bekas は「使用済みの」という意味もあるため、人には mantan を使うのが現在の標準です。
日本の役職名は、そのまま訳せません「審議官」は日本の官僚機構に固有の職名で、インドネシアに対応する官職がありません。こういうときは役割で置き換えるのが定石です。
pejabat senior(高官)/pejabat tinggi(高位の官僚)/direktur jenderal(局長級)/deputi(次官補・副長官)。
この記事では「許可審査を統括していた」と本文に説明があるので、pejabat senior と広めに置いて、役割は関係節で補うのが安全です。
インドネシアの官職menteri(大臣)> wakil menteri(副大臣)> sekretaris jenderal(事務次官)> direktur jenderal(総局長。略して dirjen)> direktur(局長)> kepala biro(部長)。
eselon I / II / III という階級の言い方もあります。eselon I が最上位。
省庁名:「経済産業省」=Kementerian Ekonomi, Perdagangan, dan Industri(英語名 METI から)。長い正式名は、訳したあと一度だけ書いて、以降は「省」と受けるのが読みやすい形です。
「元高官」。日本固有の職名は役割で置き換える
訳の設計

引用部分(”Regulasi Bukan Tujuan”) | コロン | 何の記事か(Wawancara dengan …) | 誰に(Mantan Pejabat Senior) | 何について(soal Keamanan Ekonomi)

原文(再掲)

「規制は目的ではない」――経済安全保障をめぐり、元審議官に聞く

模範訳

“Regulasi Bukan Tujuan”: Wawancara dengan Mantan Pejabat Senior soal Keamanan Ekonomi

見出しは語順を組み替えます

日本語の見出しは「引用」――「テーマ」、「誰に聞く」という順です。インドネシア語では「引用」:「何の記事か」+「誰に」+「何について」と並べます。
日本語のダッシュ(――)は、インドネシア語ではコロン(:)に置き換えるのが自然です。引用と、その説明という関係だからです。
soal=〜について(tentangmengenai より短く、見出し向き)。見出しでは短い語を選ぶのが原則で、tentang より soal のほうがよく使われます。
また、インドネシア語の見出しは各語の頭を大文字にすることが多い(Wawancara dengan Mantan Pejabat Senior)。ただし前置詞(dengansoal)は小文字のままです。媒体によって方針が違うので、どちらでも構いませんが、1本の記事の中では統一します

よくあるつまずき

「審議官」をそのまま訳そうとして止まる。日本固有の職名には対応語がありません。役割で置き換える——pejabat senior(高官)と広めに置き、具体的な役割は関係節で補うのが安全です。

鉤括弧をそのまま持ち込む。インドネシア語では二重引用符 ” “ です。単一引用符 ‘ ‘ は引用の中の引用に使います。

リード(2文)

半導体製造装置やレアアースの輸出管理が、通商政策の枠を超えて安全保障の道具として扱われて久しい。経済産業省で許可審査を統括し、昨年退官した元審議官に聞いた。

訳に使う語
半導体製造装置semikonduktor(半導体)は英語からの借用語で、そのまま使います。チップcipchip の綴り直し)。
「製造装置」は mesin pembuat …(〜を作る機械)/peralatan manufaktur …(〜の製造設備)/alat produksi …報道では mesin pembuat semikonduktor がいちばん通りやすい言い方です。
レアアースlogam tanah jaranglogam(金属)+tanah(土)+jarang(まれな)。英語 rare earth metals の直訳です。
略さずに書くのがふつうですが、tanah jarang だけでも通じます。関連語:mineral kritis(重要鉱物)/nikel(ニッケル)/bauksit(ボーキサイト)/timah(すず)。
インドネシアは資源輸出規制の当事国なので、この語彙は現地の報道でも頻出します。
「〜や〜の」をどう訳すか日本語の「AやBの〜」は例示です。インドネシア語では A dan B(AとB)で足りることが多く、例示を強調したいときだけ seperti A dan B(AやBのような)を使います。
この文では2つとも代表例なので、mesin pembuat semikonduktor dan logam tanah jarangdan でつなぐのが自然です。
語順に注意:pengendalian ekspor mesin pembuat semikonduktor dan logam tanah jarang「半導体製造装置とレアアースの輸出管理」修飾はすべて後ろに伸びるので、日本語とは逆順に並べます。
「半導体製造装置」。レアアースは logam tanah jarang
kendali=制御kendali(手綱・制御)→ mengendalikan(制御する)/pengendalian(制御・管理)/terkendali(制御されている)/tak terkendali(制御不能な)。
pengendalian ekspor輸出管理。英語 export control の定訳です。
似た語との違いpengendalian(管理・コントロール。継続的に手綱を握る)
pembatasan(制限。上限を設ける)
larangan(禁止。larangan ekspor=輸出禁止)
pengawasan(監督。見張る)
この4つは強さが違いますlarangan がいちばん強く、pengawasan がいちばん緩い。訳し分けると精度が上がります。
許可制度の語彙izin ekspor(輸出許可)/permohonan izin(許可申請)/penelaahanpeninjauan(審査)/persetujuan(承認)/penolakan(不許可)/pemberitahuan(届出)/daftar barang terkendali(規制対象品目リスト)。
本文の「許可審査」は penelaahan perizinantelaah(精査する)+peN-an
インドネシアの文脈では larangan ekspor bijih nikel(ニッケル鉱石の輸出禁止)が有名です。hilirisasi(川下化)政策とセットで語られます。同じ話題を、立場を変えて読めるのがこの分野の面白いところです。
「輸出管理」。larangan(禁止)>pembatasan(制限)>pengendalianpengawasan
日本語の「〜して久しい」「〜するようになってから長い時間がたった」という言い方です。sudah lama + 動詞 でそのまま置けます。
Sudah lama hal itu diperlakukan sebagai …「それが〜として扱われるようになって久しい」
文頭に Sudah lama を置くと、時間の長さが先に立ち、日本語の語感に近くなります。
時間の長さを表す言い方sudah lama(ずっと前から)/sejak lama(古くから)/bertahun-tahun(何年も)/selama ini(これまで)/tak kunjung(いっこうに〜しない)。
sejak lama起点を、sudah lama継続の長さを強調します。「久しい」は継続なので sudah lama
melampaui=〜を超えてlampau(過ぎる)→ melampaui(超える・上回る)。melampaui target(目標を上回る)/melampaui batas(限度を超える)/melampaui kerangka …(〜の枠を超えて)。
本文の「通商政策の枠を超えて」melampaui kerangka kebijakan perdagangankerangka=枠組み(kerangka kerja=フレームワーク、kerangka acuan=TOR)。
diperlakukan sebagai=〜として扱われる(laku=振る舞い + memper–kan の受動)。誰が扱っているかを書かないので、受動が最適です。日本語の「扱われて」がそのまま受動なので、迷いません。
「〜して久しい」。sudah lama を文頭に置くと語感が近い
mengepalai
「統括する・長を務める」。kepala(頭・長)+meN-imemimpin も可
pensiun
「退職する」。pensiun tahun lalu=昨年退官した。名詞では「年金」
訳の設計

<第1文> Sudah lama | 輸出管理が | 扱われている | 安全保障の道具として | 通商政策の枠を超えて
<第2文> 私たちは取材した | 一人の元高官に | (許可審査を統括し、昨年退官した)

原文(再掲)

半導体製造装置やレアアースの輸出管理が、通商政策の枠を超えて安全保障の道具として扱われて久しい。経済産業省で許可審査を統括し、昨年退官した元審議官に聞いた。

模範訳

Sudah lama pengendalian ekspor mesin pembuat semikonduktor dan logam tanah jarang diperlakukan sebagai alat keamanan, melampaui kerangka kebijakan perdagangan. Kami mewawancarai seorang mantan pejabat senior yang mengepalai penelaahan perizinan di Kementerian Ekonomi, Perdagangan, dan Industri dan pensiun tahun lalu.

第2文は「主語がない日本語」の典型です

「元審議官に聞いた」——誰が聞いたのかが書かれていません。日本語では自明なので省きますが、インドネシア語では主語が要ります
選択肢は3つ。
Kami mewawancarai …(私たちは取材した)——媒体の一人称。いちばん自然です。
… diwawancarai(〜が取材された)——受動。行為者を出さずに済みますが、やや堅い。
Berikut wawancara dengan …(以下は〜へのインタビューである)——前置きとして置く形。
模範訳では①を選びました。インタビュー記事の冒頭では kami が標準です。
もうひとつ、日本語の「統括し、退官した元審議官」——2つの動詞が1人にかかっています。インドネシア語では yang mengepalai … dan pensiun … と、yang のあとに dan で並べるのが素直です。
seorang(一人の)を入れているのにも意味があります。初めて登場する人物だという合図です。既出なら sangitu が付きます。

よくあるつまずき

主語を補わずに訳し始める。「聞いた」の主語がないまま bertanya kepada … と書くと、文が浮きます。訳す前に、誰の行為かを決める——それが決まらないなら受動を選びます。

修飾の語順を日本語のまま置く。「半導体製造装置やレアアースの輸出管理」は、インドネシア語ではpengendalian ekspor(管理)が先、修飾があと後ろに伸びるのが原則です。

「〜して久しい」を lama sekali などで訳す。それは「とても長い」で、継続の含みが出ません。sudah lama + 動詞 が定型です。

漢数字は、そのままでは訳せません とくに「割」は persen に直す必要があります 日本語 インドネシア語 注意点 九十日 sembilan puluh hari 2桁までは文字で書くのが自然 六割 60 persen 「割」の単位はありません 八割を超えていた di atas 80 persen lebih dari 80 persen でも可 四割増えた bertambah 40 persen naik 40 persen も同義 十数件 belasan kasus belasan = 11〜19 の概数 -an をつけると「〜くらい」の概数になります 概数の作り方 belasan = 十数(11〜19) puluhan = 数十 / ratusan = 数百 ribuan = 数千 / jutaan = 数百万 割合の言い方 60 persen / setengah(半分) dua pertiga(3分の2)/ seperempat(4分の1) sebagian besar(大部分)/ sebagian kecil(一部)

図2:belasan(十数)は日本語とぴったり重なる便利な語です。puluhan/ratusan/ribuan と合わせて覚えると、概数の表現がそろいます。

質問1

――許可申請の処理期間が延びているとされます。

訳に使う語
誰が言っているかを書かない形日本語の「〜とされます」「〜との声も」「〜との指摘もある」は、出所を明示せずに情報を提示する言い方です。インドネシア語では受動で受けます。
disebutkan bahwa …(〜と言われている)/dikatakan bahwa …dinilai …(〜と評価されている)/diduga …(〜と見られる)/dikabarkan …(〜と伝えられる)。
この記事の3か所質問1:「〜とされます」Disebutkan bahwa …
質問2:「〜との声も」Ada pula suara … bahwa …
談話3:「〜との指摘もある」Ada pula yang menunjukkan bahwa …
同じ「伝聞」でも、日本語の言い方が違えば訳し分けるのが丁寧です。「声」は suara、「指摘」は menunjukkanmenyoroti
インタビューの質問文の作り方質問はダッシュで始めます。インドネシア語ではem ダッシュ(—)ハイフンを使い、そのあとに質問文を置きます。
質問の形は2通り。①事実を述べて水を向けるDisebutkan bahwa …)と、②直接問うApakah …?)。この記事は質問1・2が①、質問3が②です。日本語の形をそのまま写すのが正解です。
kian=ますます(makin の書き言葉版)。kian memanjangますます長くなっている。日本語の「延びている」という進行の含みが、kian で出ます。
「〜とされます」。出所を書かない伝聞は受動で受ける
permohonan izin
「許可申請」。mohon(願う)+peN-anizin=許可
kian memanjang
「ますます長くなる」。kianmakin の書き言葉版
訳の設計

— 言われている | 〜ということが | 許可申請の処理時間が | ますます長くなっている

原文(再掲)

――許可申請の処理期間が延びているとされます。

模範訳

— Disebutkan bahwa waktu pemrosesan permohonan izin kian memanjang.

質問文は、日本語の形をそのまま写します

日本語の質問は「〜とされます。」と、疑問符がありません。事実を述べて、相手に水を向ける形です。
これをインドネシア語で Apakah benar bahwa …?(〜というのは本当ですか)と疑問文に変えてしまうと、やや詰問調になります。原文はもっと柔らかいので、Disebutkan bahwa … と述べる形のまま置くのが忠実です。
インタビュー記事では、質問者がどこまで踏み込んでいるかも情報です。断定して聞くのか、伝聞として置くのか、直接問うのか——日本語の形を保つと、その温度が伝わります。
この記事では、質問1・2が「述べる形」、質問3が「Apakah …?」の疑問形3つめだけ踏み込んでいることになります。

談話1(4文)

「昨年度の標準処理期間は九十日と定められていましたが、その範囲で処理できたのは全体の六割にとどまります。前年度は八割を超えていた。人員は据え置かれたまま、対象品目だけが三年で四割増えた。現場が回らなくなるのは目に見えていました」

訳に使う語
「年度」と「年」は別語tahun(年)に対して、tahun fiskaltahun anggaran会計年度・予算年度tahun ajaran=学年度(学校の)。
日本語の「昨年度」「前年度」は行政の話なので tahun fiskal lalutahun fiskal sebelumnya と訳します。tahun lalu(昨年)とは別です。
「前年度」をどう区別するかこの談話には「昨年度」「前年度」の2つが出ます。日本語では紛らわしいところです。
tahun fiskal lalu(直近の年度)/tahun fiskal sebelumnya(そのさらに前の年度)。lalusebelumnya を使い分けると、時間の前後がはっきりします。
迷ったら setahun sebelumnya(その1年前)と書くのも手です。
時を表す語をそろえるtahun lalu(昨年)/tahun ini(今年)/tahun depan(来年)/tahun-tahun terakhir(ここ数年)/dalam tiga tahun(3年で)/selama tiga tahun(3年間)。
dalamselama の差:dalam tiga tahun=3年という期間の中で(変化の量)、selama tiga tahun=3年のあいだずっと(継続)。本文の「三年で四割増えた」は変化なので dalam
ditetapkan=定められる(tetap=定まった + di–kan)。日本語の「定められていました」がそのまま受動なので、迷いません。
「年度」。tahun lalu(昨年)とは別語。tahun anggaran も同義
「とどまる」は動詞ではありません日本語の「六割にとどまる」berhenti pada 60 persen(60%で止まる)と直訳すると、物理的に止まったように読めます。
ここは「〜しかない」という意味なので、hanya 60 persentidak lebih dari 60 persenbaru 60 persen のどれかで置きます。
3つの言い方の差hanya …(〜だけ)——いちばん短く、批判の含みが軽く乗ります。
tidak lebih dari …(〜を超えない)——やや硬く、事実として突き放す。記事の地の文向き
baru …(まだ〜にすぎない)——これから増える見込みがある含み。
この談話は現場の実感なので hanya。最後の地の文「十数件にすぎない」tidak lebih dari belasan と、硬いほうを選びました。同じ「にすぎない」でも訳し分けます
「全体の」をどう置くかdari keseluruhan(全体のうち)/dari totaldari seluruh permohonan(申請全体のうち)。
hanya 60 persen dari keseluruhan全体の6割だけdari が「〜のうち」を作ります。前回の記事に出た Dari 41 daerah … と同じ働きです。
数字の書き方:60 persen と算用数字+語。enam puluh persen と全部文字で書くこともできますが、報道では算用数字が標準です。2桁までの単純な数(九十日)は文字パーセントは算用数字——この使い分けが自然です。
「〜にとどまる」。hanya(軽い)/tidak lebih dari(硬い)で訳し分ける
tetap=変わらないtetap=そのまま・変わらない・依然として。Harga tetap.(価格は据え置き)/suku bunga tetap(固定金利)/tetap saja(それでもやはり)。
日本語の「据え置かれたまま」は、tetap ひとつで足ります。dibiarkan tetap(そのままにされた)と受動にすると、誰かが意図的に据え置いたという非難が乗ります。この談話は事実を並べているだけなので、tetap のほうが中立です。
対比を作る sedangkanJumlah personel tetap, sedangkan barang yang menjadi sasaran justru bertambah 40 persen …
sedangkanいっぽう〜は2つを並べて比べる接続語で、評価は含みません。
そこに justru(かえって・むしろ)を足すことで、「人は増えないのに、仕事だけ増えた」という不均衡が浮かびます。日本語の「だけが」に対応するのが justru です。
「対象品目」の言い方barang yang menjadi sasaran(対象となる品目)/barang terkendali(規制対象品)/komoditas yang diatur(規律対象の品目)/daftar barang(品目リスト)。
sasaran=的・対象(sasar=狙う)。tepat sasaran(的を射る)と同じ語です。
日本語の「〜たまま」は、状態の持続。tetapmasihbelum berubah で受けます。「〜まま」を直訳しようとしないのがコツです。
「据え置かれたまま」。tetap ひとつで足りる
「目に見えていた」は視覚の話ではありません日本語の「〜のは目に見えていました」「そうなることは、あらかじめ分かっていた」terlihat(見える)と直訳すると、物理的に見えたことになってしまいます。
正しくは Sudah bisa diduga bahwa …(〜は予想できたことだ)/Sudah bisa diprediksi …Sudah jelas sejak awal bahwa …(はじめから明らかだった)。
duga=推測するmenduga(推測する)/diduga(〜と見られる)/dugaan(推測・疑い)/tidak diduga(予想外の)/di luar dugaan(予想を超えて)。
報道では diduga が非常に多用されますdiduga terlibat(関与したと見られる)/tersangka(容疑者)とセットで出ます。
kewalahan=手が回らないkewalahan対応しきれない・手いっぱいで参っている。日本語の「現場が回らなくなる」にぴたりと合います。
rumah sakit kewalahan(病院が対応しきれない)/petugas kewalahan(職員が手一杯)。ke–an の「困った受動」の仲間で、kehujanan(雨に降られる)/kepanasan(暑すぎる)と同じ作りです。
言い換え:tidak sanggup menangani(対応しきれない)/kelebihan beban(過負荷)。
lapangan=現場(di lapangan=現場で)。petugas lapangan(現場職員)/kondisi di lapangan(現場の状況)。日本語の「現場」がそのまま lapangan で通ります。
「目に見えていた」=予想できたterlihat と直訳しない
kewalahan
「手が回らない・対応しきれない」。ke–an の「困った受動」
訳の設計

<1> 標準処理期間は90日と定められた | しかし | その範囲で終えられたのは全体の6割だけ
<2> 前年度は80%超だった
<3> 人員は変わらない | いっぽう | 対象品目はかえって3年で40%増えた
<4> 現場が手に負えなくなることは、予想できた

原文(再掲)

「昨年度の標準処理期間は九十日と定められていましたが、その範囲で処理できたのは全体の六割にとどまります。前年度は八割を超えていた。人員は据え置かれたまま、対象品目だけが三年で四割増えた。現場が回らなくなるのは目に見えていました」

模範訳

“Jangka waktu pemrosesan standar pada tahun fiskal lalu ditetapkan sembilan puluh hari, tetapi yang dapat diselesaikan dalam rentang itu hanya 60 persen dari keseluruhan. Tahun fiskal sebelumnya angkanya masih di atas 80 persen. Jumlah personel tetap, sedangkan barang yang menjadi sasaran justru bertambah 40 persen dalam tiga tahun. Sudah bisa diduga bahwa lapangan akan kewalahan.”

「前年度は八割を超えていた」に主語を補います

日本語は「前年度は八割を超えていた」だけ。何が八割を超えていたのかは書かれていません。前文からの流れで「処理できた割合」だと分かるからです。
インドネシア語では主語が要ります。模範訳では angkanya(その数値は)と置きました。-nya が前文の60 persen を受けています。
ほかの選択肢:Pada tahun fiskal sebelumnya, angka itu masih di atas 80 persen.… masih melebihi 80 persen.… mencapai lebih dari 80 persen.
masih(まだ)を入れているのがポイントです。「あの頃はまだ8割あった」という含みが出ます。日本語の「超えていた」という過去形が持つ含みを、masih で受けているわけです。
そして4つの文をそのまま4文で訳しています。談話部分は短い文が並ぶことでリズムが出るので、ここは統合せずに保ちました。

よくあるつまずき

「六割」を enam bagian のように訳す。インドネシア語に「割」の単位はありません60 persen に直します。「割」は日本語独自の単位です。

「目に見えていた」を terlihat と直訳する。視覚ではなく予測の話です。Sudah bisa diduga bahwa … と置きます。

「昨年度」と「前年度」を区別しない。どちらも tahun lalu にすると、時間の前後が消えますtahun fiskal lalutahun fiskal sebelumnya で分けます。

「だけが」を訳し落とす。「対象品目だけが四割増えた」のだけは、人員が増えていないこととの対比です。sedangkan + justru で受けると、この不均衡が伝わります。

ここから先は、質問2以降の逐語解説です

この先では、残る6ブロックについて 日本語原文 → 訳に使う語 → 訳の設計 → 模範訳 → よくあるつまずき をそろえています。あわせて収録しているのは次の内容です。

  • 「せざるを得ない/否めない/余儀なくされる」——官僚的な婉曲を型で受ける対応表
  • 抽象名詞の訳し方——自己目的化・覚悟・代償・抑止・線引き
  • 伝聞と引用の訳し分け——「〜とされます/との声も/との指摘もある」
  • 経済安全保障の語彙マップ(供給網・多国間調整・行政処分ほか)
  • 訳したあとの点検リストと、復習語彙12
  • 次に狙う2点
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