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ガスの台所はIHに変わるか——インドネシア語のエネルギー記事を訳す|数字の桁・機関名・baru の落とし穴

ガスの台所はIHに変わるか——インドネシア語のエネルギー記事を訳す(アイキャッチ)

精読 JAPANESIA
「800立方トン」は、800万トン。
数字と機関名で、訳の信頼が決まる。
インドネシアで、家庭のガスコンロ(LPG)を電気コンロ、とくにIHコンロに替える計画が、ふたたび動き出しました。LPGの8割近くを輸入に頼っているからです。このエネルギーのニュースを、日本語に訳す練習です。
訳例(添削前)は48点。流れはつかめていて、第1文と第11文はそのまま使えます。ただ、kompor induksi(IHコンロ)を「埋め込み型」、devisa(外貨)を「為替」、baru(〜にとどまる)を「ようやく」と訳し、8 juta metrik ton(800万トン)を「800立方トン」とするなど、語の取り違えと数字の桁で大きく失点しました。
エネルギー政策を知らなくても読めるよう、インドネシアの台所事情から順に解説します。
背景をゼロから(台所・コンロ・電気の契約) 訳例を1文ずつ添削 模範訳(全文) 図解11点
今日のねらい:エネルギー記事で点が削られる3つの場所

①数字の桁と単位——8 juta=800万、Rp815,56 miliar=8155億6000万、metrik ton=トン。bertambah X hingga Y は「XからYに上昇」ではなく「X〜Y増える」。小数点はコンマからピリオドへ。

②機関名と肩書きの定訳——PT PLN (Persero)=国営電力会社PLN、Direktorat Jenderal=総局、Direktur=局長、研究所の Direktur Eksekutif=所長、DPR=国会、devisa=外貨。1つ外すたびに、記事の中の誰が・何をがずれます。

③小さな語と訳抜け——baru(〜にとどまる)、padahal(〜にもかかわらず)、seiring(〜を受けて)、sendiri、adapun。そして日付・会議名・条件句。1語で文の向きが変わるので、訳し終えたら原文と1つずつ照合します。

BACKGROUND背景を、ゼロから

記事を読む前に、6つの問いを押さえておくと、訳語が自然に決まります。

Q1インドネシアの台所は、なぜガス(LPG)なの?

インドネシアの家庭の多くは、LPG(液化石油ガス)のボンベをつないだガスコンロで料理をしています。きっかけは2007年、ユスフ・カラ副大統領の主導で始まった「灯油からLPGへ」の転換です。当時の主な燃料だった灯油の補助金が国の財政を圧迫していたため、政府は貧しい家庭にガスコンロと3キロ入りのボンベを無償で配り、9年ほどで5719万セットを配りました。

この緑色の3キロボンベは、形から「メロン」(tabung melon)と呼ばれます。中身のLPGには補助金がついていて安いため、本来の対象ではない家庭や飲食店にも広く使われ、需要と補助金が膨らむ原因になりました。2025年2月には、小売店での販売を禁じたとたんに各地で長い行列ができ、数日で撤回される騒ぎもありました。

問題は、そのLPGの多くを輸入していることです。記事が引く研究によると、家庭のエネルギー消費の41.46%をLPGが占める一方、LPG需要の77.6%は輸入で賄われています。バフリル大臣によると、輸入で流出する外貨は年間約130兆ルピア(約1兆1500億円)。2027年度の予算では、補助対象となる3キロ入りLPGの量が800万トンに削られました(政府案は894.5万トン)。

数字で見る、インドネシアの台所のLPG
記事の第4・9・13文に出てくる数字です。円換算は1円=約112.8ルピア(2026年10月7日)。
家庭のエネルギー消費に占めるLPG41.46%料理の燃料の主役。台所の4割を支える
LPG需要のうち輸入でまかなう分77.6%国内の生産では足りず、8割近くが輸入
輸入で流出する外貨(年間)約130兆ルピア約1兆1500億円。補助金も別に年80兆ルピア超
2027年度の補助対象の3キロLPG800万トン政府案の894.5万トンから削減(9月29日成立)
図1:台所の4割をLPGが支え、そのLPGの8割近くを輸入に頼る。記事の第4文の padahal(〜にもかかわらず)は、この「重さ」を言っています。
Q2電気コンロへの切り替えは、初めてじゃないの?

初めてではありません。ジョコ・ウィドド政権の2022年にも、同じ計画がありました。政府はジャワ島中部のソロとバリ島のデンパサールで試験配布を行い、貧困世帯30万世帯に、2口の電気コンロ・調理器具・ブレーカーのセット(1セット180万ルピア)を無償で配る計画を立てました。

ところが、電気代が上がるのではないか、契約容量を引き上げさせられるのではないか、といった不安が広がり、国営電力会社PLNのダルマワン・プラソジョ社長が2022年9月27日、計画の中止を発表しました。理由は「国民の暮らし(kenyamanan)への配慮」で、コロナ禍からの経済回復期だったことも挙げられました。記事が dengan dalih(〜を名目に)という、建前をにおわせる語を選んでいるのも、こうした経緯を踏まえた書き方と読めます。

それから4年。LPG輸入への依存が減らないなか、バフリル・エネルギー鉱物資源相が2026年6月、2027年に電気コンロを配るための予算として8155億6000万ルピア(約72億円)を国会に求め、計画がふたたび動き出しました。

ガスの台所の20年——灯油からLPG、そして電気へ?
濃い丸が、記事が書かれた2026年秋の動きです。
2007年灯油からLPGへの転換が始まるユスフ・カラ副大統領の主導。貧困世帯にガスコンロと3キロボンベを無償で配り、9年ほどで5719万セット。
2017年1月900VA の電気料金の補助を、貧困世帯だけに450VA はすべての世帯が補助の対象のまま。
2022年電気コンロの試験配布(ソロ・デンパサール)貧困世帯30万世帯に、2口コンロ・調理器具・ブレーカーのセットを無償で配る計画(1セット180万ルピア)。
2022年9月27日PLN が電気コンロ計画の中止を発表「国民の暮らしへの配慮」が理由。コロナ禍からの経済回復期だった。
2025年2月3キロLPGの小売店での販売を禁止 → 数日で撤回各地で長い行列ができ、大統領の指示で小売りを再開。
2026年6月15日バフリル大臣、電気コンロの予算を国会に要求2027年分として8155億6000万ルピア(約72億円)。
9月29日2027年度国家予算が成立補助対象の3キロLPGは800万トンに削減。
10月1日バフリル氏、川下化・エネルギー転換担当調整相に就任エネルギー鉱物資源相を兼務。
10月6日ISF 2026 で CSIS などが研究を発表全面的にIHに替えると、電力需要が27.62〜53.43ギガワット増える。
図2:2022年の計画は「道半ば(di tengah jalan)」で止まりました。今回は、輸入LPGを減らすという目的と、予算の裏付けがあるのが違いです。
Q3IHコンロって何? 試されている「4種類のコンロ」は?

IHコンロ(kompor induksi)の IH は「誘導加熱(induction heating)」の略です。コンロの中のコイルに電流を流して磁力の変化をつくり、その力で鍋そのものを発熱させます。炎や熱い板で外から温めるのではないので、熱が逃げにくいのが特徴です。

その代わり、使える鍋が限られます。鉄など、磁石がつく鍋でないと発熱しません。インドネシアの家庭で広く使われているアルミの鍋は、そのままでは使えないのです。ユリオット副大臣も「ふつうの鍋は使えないので、セットにする必要がある」と説明しています。記事の beserta alat masaknya(調理器具とともに)は、このことです。

政府が試験しているのは、IHを含む4種類です(図3)。訳例は kompor induksi を「埋め込み型」と訳しましたが、埋め込み型(ビルトイン)は設置のしかたの話で、加熱のしくみとは関係ありません。

政府が試験している4種類のコンロ
第10文の4つです。熱のつくり方が違うので、効率も、使える鍋も違います。
ガスコンロkompor gasLPG の炎で、鍋を外から温める。どんな鍋でも使える。いまの主流
IHコンロkompor induksiコイルの磁力で、鍋そのものを発熱させる。熱が逃げにくいが、磁石がつく鍋(鉄など)でないと使えない。記事の主役
フィラメント式電気コンロkompor listrik berbasis filamen電熱線(フィラメント)が熱くなり、その熱で鍋を温める。どんな鍋でも使えるが、温まるまで時間がかかる。電気コンロ
赤外線コンロkompor inframerah天板の下のヒーターが出す赤外線で温める。どんな鍋でも使える。電気コンロ
図3:熱のつくり方が違えば、同じ料理に必要な電力も変わります。第5文の「27.62〜53.43ギガワット」に幅があるのは、IHコンロの効率をどう見込むかで、必要な電力が変わるからです。
Q4「450VA」「900VA」って何? なぜ配線工事が要るの?

インドネシアの家庭の電気は、契約容量(daya、単位は VA=ボルトアンペア)ごとに区分されています。いちばん小さいのが450VA、次が900VA。450VAの家庭はすべて補助(安い料金)の対象で、900VAは2017年1月から、政府の貧困世帯データに載る家庭だけが補助の対象になりました。

電気コンロ1台を使うには、約1000VAが必要です(ユリオット副大臣)。450VAの家庭では、コンロ1台だけで契約容量を超え、ブレーカーが落ちてしまいます。だから、コンロを配るだけでは足りず、契約容量の引き上げや、家の中の電気設備・配線の改修(instalasi dan kabel)が要る——これが、記事の最後の段落の「険しい道のり」です。

日本の家庭(100ボルト)に置き換えると、450VAは4.5アンペア、900VAは9アンペアの契約にあたります。日本の一般家庭の30〜40アンペアと比べると、ごく小さな容量です。

契約容量(VA)と、電気コンロ1台に必要な容量
VA(ボルトアンペア)は、同時に使える電気の大きさの目安です。棒の長さは3000VA を基準にしています。
450VA の契約補助対象(すべての世帯)
450VA
900VA の契約補助対象は貧困世帯だけ(2017年〜)
900VA
電気コンロ1台必要な容量(副大臣の説明)
1,000VA
参考:日本の一般家庭30アンペア(100ボルト)
3,000VA
450VA の家では、コンロ1台だけで契約容量を超え、ブレーカーが落ちる。だから契約容量の引き上げと、電気設備・配線の改修が要る(第12文)
図4:第12文の baru(〜にとどまる)は、この「小ささ」を言っています。「ようやく450VAになった」と訳すと、話が逆になります。
Q5「27〜53ギガワット」は、どれくらい?

インドネシアの発電設備の容量は、2025年10月時点で約107ギガワット(エネルギー鉱物資源省)。研究が示した27.62〜53.43ギガワットの追加需要は、その4分の1から半分にあたります。家庭の台所を電気に替えるだけで、それだけの発電所が新たに要るかもしれない、ということです。

もう1つの問題は、電気の中身です。インドネシアの電気の約3分の2(2025年1〜10月の発電量の66.5%)は、石炭火力でつくられています。石炭の電気でコンロを動かしても、輸入LPGは減らせますが、環境にやさしいとは言えません。CSISインドネシアのヨセ・リザル・ダムリ所長が「よりクリーンな電力供給を伴うべきだ」と言うのは、このためです。

同じ研究は、家庭・電気自動車・データセンター・鉱物の川下化などで、国の電力需要が2025年の539テラワット時から、2060年には1813テラワット時と3倍以上に増えると予測しています。

「27〜53ギガワット」は、どれくらい?
研究の試算を、インドネシアのいまの発電設備と比べてみます。
① 必要になる電力と、いまの発電設備(約107ギガワット・2025年10月)
027.6253.43107GW
効率の高いコンロなら 27.62GW(いまの約4分の1)効率が低いと 〜53.43GW(約半分)いまの発電設備の全体
② いまの電気は、何でつくられている?(2025年1〜10月の発電量)
石炭火力 66.5%そのほか
台所を電気に替えると、新たな発電所が多く要る。その電気が石炭なら、輸入LPGは減っても環境にはやさしくない——だから CSIS の所長は「よりクリーンな電力を伴うべきだ」と言う(第6文)
図5:第5文の「新たな電力需要」と、第6文の「よりクリーンな電力供給」は、この2本の棒の話です。
Q6記事に出てくる人と組織は?

エネルギー政策を担うのはエネルギー鉱物資源省(Kementerian ESDM)。大臣のバフリル・ラハダリア氏は、2026年10月1日、川下化・エネルギー転換担当調整相(Menko)にも就任し、大臣を兼務しています。調整相は、複数の省庁をまとめる役割の閣僚です。川下化(hilirisasi)は、鉱石をそのまま輸出せず、国内で精錬・加工して付加価値を高める政策で、2020年1月のニッケル鉱石の輸出禁止が代表例です。

省の中は、大臣の下に副大臣(Wakil Menteri)、その下に総局(Direktorat Jenderal)、さらにその下に局(Direktorat)があります。記事のギギ・ウディ・アトモ氏は、新・再生可能エネルギー・省エネルギー総局(EBTKE)の中の省エネルギー局長です。

電気を届けるのは国営電力会社PLN。社名の (Persero) は、国営企業のうち株式会社の形をとるものを示す表示で、PLNは政府が株式を100%持つ非上場の会社です。研究を発表したCSIS(戦略国際問題研究所)はジャカルタのシンクタンクで、トップの Direktur Eksekutif は「所長」と訳します。予算を成立させるのは国会(DPR)です。

登場する人と組織——肩書きの定訳
エネルギー鉱物資源省(ESDM)の中の上下関係と、省の外の3つの組織です。
大臣Menteri
エネルギー鉱物資源相:バフリル・ラハダリア氏2026年10月1日から川下化・エネルギー転換担当調整相(Menteri Koordinator)を兼務。第8文
その下に
副大臣Wakil Menteri
エネルギー鉱物資源副大臣:ユリオット・タンジュン氏「ユリオット・タンジュン・エネルギー鉱物資源副大臣は」の語順で書く。第12文
その下に
総局Direktorat Jenderal
新・再生可能エネルギー・省エネルギー総局(EBTKE)長は「総局長」(Direktur Jenderal:エニヤ・リスティアニ・デウィ氏)。
その下に
局Direktorat
省エネルギー局:局長 ギギ・ウディ・アトモ氏Direktur Konservasi Energi=省エネルギー局長。「局長官」「エネルギー転換局長」ではない。第10文
CSIS インドネシアCentre for Strategic and International Studiesジャカルタのシンクタンク(戦略国際問題研究所)。トップの Direktur Eksekutif は「所長」:ヨセ・リザル・ダムリ所長。第4・6文
国営電力会社 PLNPT PLN (Persero)(Persero) は国営企業の株式会社形態の表示。政府が100%保有する非上場企業で、送配電と小売りを事実上独占。第2文
国会DPR(Dewan Perwakilan Rakyat)国家予算(APBN)を成立させる。直訳は「国民議会」だが、定訳は「国会」。第13文
図6:同じ Direktur でも、省の中なら「局長」、研究所なら(Eksekutif がついて)「所長」。訳例は「執行役員」「局長官」とし、組織の格を取り違えていました。
STEP 1原文を読んで、日本語に訳す

目安は35分。見出しも訳します。番号は、あとの添削と対応しています。

Terjemahkan artikel berikut ke dalam bahasa Jepang!
KOMPOR LISTRIK KEMBALI DILIRIK, IMPOR LPG JADI TARUHAN

1Wacana mengganti kompor gas dengan kompor listrik bukan barang baru. 2Program serupa pernah digulirkan pada era Presiden Joko Widodo, tetapi pupus di tengah jalan setelah PT PLN (Persero) membatalkannya pada September 2022 dengan dalih menjaga kenyamanan masyarakat di masa pemulihan ekonomi. 3Kini, gagasan itu kembali mengemuka seiring tak kunjung surutnya ketergantungan Indonesia pada LPG impor.

4Kajian Centre for Strategic and International Studies (CSIS) Indonesia dan Tenggara Strategics yang dipaparkan dalam Indonesia International Sustainability Forum (ISF) 2026 di Jakarta, Selasa (6/10), menunjukkan bahwa 77,6 persen kebutuhan LPG nasional masih dipenuhi dari impor, padahal LPG menyumbang 41,46 persen konsumsi energi rumah tangga. 5Jika konversi ke kompor induksi diterapkan secara penuh, kebutuhan listrik baru diperkirakan bertambah 27,62 hingga 53,43 gigawatt, bergantung pada efisiensi kompor. 6Direktur Eksekutif CSIS Indonesia Yose Rizal Damuri menilai elektrifikasi dapat memperkuat ketahanan energi, tetapi seyogianya dibarengi pasokan listrik yang lebih bersih sehingga sekaligus menciptakan pasar bagi energi hijau.

7Pemerintah sendiri berkukuh melanjutkan rencana tersebut. 8Menteri Energi dan Sumber Daya Mineral (ESDM) Bahlil Lahadalia, yang pekan lalu dilantik sebagai Menteri Koordinator Bidang Hilirisasi dan Transisi Energi sembari tetap merangkap jabatannya, telah mengusulkan anggaran Rp815,56 miliar untuk membagikan kompor listrik beserta alat masaknya secara cuma-cuma kepada rumah tangga berdaya di bawah 900 VA. 9Menurut dia, impor LPG menyedot devisa sekitar Rp130 triliun per tahun. 10Adapun menurut Direktur Konservasi Energi pada Direktorat Jenderal Energi Baru, Terbarukan, dan Konservasi Energi (EBTKE) Gigih Udi Atmo, pemerintah tengah menguji empat jenis kompor, yakni kompor gas, induksi, listrik berbasis filamen, dan inframerah.

11Meski demikian, jalan menuju dapur tanpa gas terbilang terjal. 12Wakil Menteri ESDM Yuliot Tanjung mengakui bahwa banyak rumah tangga baru berlangganan daya sekitar 450 VA, sedangkan satu kompor listrik membutuhkan sekitar 1.000 VA sehingga instalasi dan kabel di rumah warga harus disesuaikan. 13Sementara itu, APBN 2027 yang disahkan DPR pada 29 September lalu memangkas volume LPG 3 kg bersubsidi menjadi 8 juta metrik ton.

Disadur dari Antara, detikFinance, dan Katadata
記事の語注(語をタップすると解説)
lirik=ちらりと見るmelirik=横目で見る・ちらりと見る。受け身の dilirik=目を向けられる→注目される。kembali dilirik=再び注目される。
(再び)注目される
taruhan=賭け金taruhan=賭け金・賭けの対象。… jadi taruhan=〜が懸かっている、〜の成否が問われる。
「賭けになる」と直訳すると、日本語では意味が通りません。
(成否が)懸かっている
新しい品物ではない直訳は「新しい品物ではない」。日本語の慣用句「今に始まったことではない」にあたります。
今に始まったことではない
gulir=転がるmenggulirkan=転がす→(政策・計画を)打ち出す・始動させる。受け身が digulirkan。
(政策が)打ち出される
pupus=潰えるpupus=(望み・計画が)潰える。di tengah jalan=道の途中で。合わせて「道半ばで頓挫する」。
道半ばで頓挫する
dalih=言い分dalih=言い訳・言い分。dengan dalih …=〜を名目に(建前や口実のニュアンスがある)。
書き手が、その理由を額面どおりには受け取っていないことをにおわせる語です。
〜を名目に
muka=顔・前mengemuka=表に出てくる→浮上する・表面化する。kembali mengemuka=再び浮上する。
浮上する・表面化する
surut=(潮が)引くtak kunjung …=いつまでたっても〜しない。surut=(潮・水が)引く。
tak kunjung surut=一向に減らない・収まらない。
一向に減らない
意外さ・深刻さを強めるA, padahal B=Bなのに(にもかかわらず)A。前の内容の深刻さや意外さを強める接続詞で、単純な対比の「〜に対し」とは違います。
〜にもかかわらず
induksi=誘導IH=induction heating(誘導加熱)。磁力の変化で鍋そのものを発熱させるコンロです。日本の「IHクッキングヒーター」と同じもの。
「埋め込み型(ビルトイン)」は設置のしかたで、別の話です(背景Q3)。
IHコンロ
改まった「べき」seyogianya=本来〜すべきだ、〜するのが望ましい。seharusnya より改まった書き言葉です。
本来〜すべきだ
kukuh=堅固なberkukuh=(反対があっても)主張・方針を曲げない。berkukuh melanjutkan …=あくまで〜を続ける構え。
あくまで〜する構え
rangkap=二重のrangkap=二重の。merangkap jabatan=役職を兼務する。sembari tetap merangkap=引き続き兼務しながら。
兼務する
sedot=吸うmenyedot=(ストローなどで)吸い上げる。devisa=外貨(外貨準備)。
menyedot devisa=外貨を吸い上げる→日本語では「外貨が流出する」。「為替」ではありません。
外貨を吸い上げる
話題を脇へ移すadapun …=なお、〜について言えば。話題を少し脇へ移すときの書き言葉です。訳から落としやすい語の1つ。
なお
bilang=言うterbilang …=〜と言える、〜の部類に入る。書き手の判断を、断定を少しやわらげて示す語です。
〜と言える
「ようやく」ではないbaru は「まだ〜にすぎない」。数量と組むと「〜にとどまる」(少ない)。
baru berlangganan 450 VA=450VAの契約にとどまる。「ようやく」と訳すと、意味が逆になります(図10)。
〜にとどまる(少ない)
桁の単位juta=100万、miliar=10億、triliun=1兆。
8 juta=800万、Rp815,56 miliar=8155億6000万ルピア、Rp130 triliun=130兆ルピア(図8)。
100万・10億・1兆
STEP 2訳例を読む(添削前)

この記事を訳した例です。よくできている箇所もあります。第1文の「今に始まったことではない」、第2文の「道半ば」、第11文の「険しいと言える」は、インドネシア語の言い回しを、日本語の慣用句にうまく置き換えています。まずは全体を読み、どこで意味がずれているかを探してみてください。

訳例(添削前)
電気コンロが再び注目される LPG輸入が賭けとなる

1ガスコンロを電気コンロに替えるという議論は今に始まったことではない。2同様のプログラムはジョコウィドド政権時代にもすすめられたことがあるが、PT PLN(上場会社)が経済回復の時期における国民の安全を守るという口実で道半ばで2022年9月に中止された。3現在、インドネシアの輸入LPG依存がいつまでたっても消えないことに準じて、再びこの構想が浮上した。

4ISF会議の中で発表されたCSIS INDONESIAとTenggara Strategicsの研究では、家庭エネルギー消費に対するLPGの寄与率は41,46%であるのに対し、国内のLPG需要の77,6%はまだ輸入に依存していることを示している。5埋め込み型コンロへの転換が全面的に適応された場合、新しく生まれる電気需要は27.62ギガワットから53.43ギガワットに上昇すると推測される。6インドネシアCSIS執行役員ヨセ リザル ダムリは、電力化はエネルギー安全保障をより強化できるが、よりクリーンな電力供給を伴うべきであり、それにより同時にグリーンエネルギーにとっての市場を創設できると見ている。

7政府はこの計画を断固として進めている。8バフリル ラハダリア氏 エネルギーと鉱物資源大臣は(先週川下化とエネルギー転換部門調整大臣に任命され、今でも役職を兼任している)電気コンロと調理器具は900VA以下の電力世帯に無料で提供するために8155,6億ルピアの予算を提出した。9同氏によれば、LPG輸入は年間約130兆ルピアの為替を消化しているとのことだ。10ギギ ウディ アトモ氏 新、再生、エネルギー局長官のエネルギー転換局長によれば、政府は現在4種類のコンロ、すなわちガスコンロ、埋め込み型、フィラメンに基づく電気、そして赤外線の4種類のコンロの調査をしているとのことだ。

11とはいえ、ガスなしの台所へ向かう道は険しいと言える。12ユリオット氏 鉱物資源副大臣は、多くの家庭がようやく450VAほどの契約となった一方で、一台の電気コンロは1,000VAを要し、家庭のケーブルの調整が必要であると認めている。13一方で、9月29日に国民議会で可決された2027年度国家予算は、補助金付きLPG3キロを800立方トンに削減している。

48点の内訳——意味が変わる誤訳と、数字の桁
流れはつかめています。点を落としたのは、語の取り違えと数字・単位、そして訳抜けです。
正確さinduksi(2回)・devisa・Persero・konservasi の誤訳/baru で意味が逆/800立方トン/会議名・日付・条件句の訳抜け
24/50
自然さ主語と述語のねじれ(第2・4文)/括弧の差し込み(第8文)/「準じて」「寄与率」「適応」/「とのことだ」
15/30
語彙と表記肩書きの定訳(執行役員・局長官)/小数点のコンマ・%の混在/「フィラメン」の誤記/人名の中黒
9/20
良い点:第1文と第11文はそのまま使える。「今に始まったことではない」「道半ば」「険しいと言える」など、日本語の慣用句への置き換えが的確
図7:自然さと表記より、正確さの失点が大きい答案です。誤訳の語と数字の桁を直すだけで、点は大きく戻ります。
大きく削られた4つ

①意味が変わる誤訳——kompor induksi(IHコンロ)を「埋め込み型」(第5・10文の2回)、devisa(外貨)を「為替」(第9文)、Persero(国営企業の会社形態)を「上場会社」(第2文)、konservasi(省エネルギー)を「エネルギー転換」(第10文)。

②意味が逆——baru(〜にとどまる)を「ようやく」と訳し、「契約容量が小さい」という論旨が反対になりました(第12文)。

③数字の桁と単位——8 juta metrik ton を「800立方トン」(第13文)、Rp815,56 miliar を「8155,6億」(第8文)、bertambah X hingga Y を「XからYに上昇」(第5文)。

④訳抜け——会議名・場所・日付(第4文)、bergantung pada efisiensi kompor(第5文)、sendiri(第7文)、adapun(第10文)、Tanjung・エネルギー・instalasi(第12文)、volume(第13文)。

数字の読み方——桁・単位・幅
インドネシア語の数字は、コンマが小数点、ピリオドが桁区切り。日本語とは逆です。
原文訳例正しい訳
Rp815,56 miliar
8155,6億ルピアコンマが残り、桁の書き方も混在
8155億6000万ルピアmiliar=10億。「億・万」で書く
Rp130 triliun
130兆ルピアそのままで正しい
130兆ルピア(約1兆1500億円)triliun=1兆
8 juta metrik ton
800立方トン桁と単位の両方が違う
800万トンjuta=100万。metrik ton=トン(重さ)
bertambah 27,62 hingga 53,43 gigawatt
27.62から53.43ギガワットに上昇到達値ではなく増加幅
27.62〜53.43ギガワット増えるbertambah=増える。X hingga Y=X〜Y
77,6 persen/41,46 persen
77,6%/41,46%小数点のコンマ・%の混在
77.6%/41.46%小数点はピリオドに、記号はそろえる
sekitar 1.000 VA
1,000VAそのままで正しい
約1000VA(1,000VAも可)インドネシア語のピリオドは桁区切り
図8:数字の失点は、桁の単位(juta・miliar)と、コンマとピリオドの役割を覚えれば防げます。
STEP 31文ずつ、訳し直す

ここからは見出しと13の文を1つずつ、原文 → 訳例(添削前)→ 修正案 → 直すところの順に並べています。訳例の波線は直すべき箇所、修正案のマーカーは書き換えた箇所です。

見出し
原文
KOMPOR LISTRIK KEMBALI DILIRIK, IMPOR LPG JADI TARUHAN
訳例(添削前)
電気コンロが再び注目される LPG輸入が賭けとなる
修正案
電気コンロに再び注目 LPG輸入削減が懸かる
ここが良い
dilirik(目を向けられる)を「注目」と取れています。lirik は「ちらりと見る」。kembali dilirik=再び目を向けられる=再び注目される。
直すところ
jadi taruhan は「懸かっている・問われる」。taruhan はもともと「賭け金・賭けの対象」。そこから … jadi taruhan で「〜が懸かっている(成否が問われる)」という意味になります。「賭けとなる」では、何を賭けるのかが分からず、日本語として意味が通りません。
何が懸かっているのかを補います。電気コンロへの転換で問われているのは、LPGの輸入を減らせるかどうかです(第3・9文)。修正案は「LPG輸入削減が懸かる」と、記事の中身から補っています。
見出しは短く締めます。「〜が再び注目される」より「〜に再び注目」のほうが、見出しらしく締まります。
第1文
原文
Wacana mengganti kompor gas dengan kompor listrik bukan barang baru.
訳例(添削前)
ガスコンロを電気コンロに替えるという議論は今に始まったことではない。
修正案
ガスコンロを電気コンロに切り替えるという構想は、今に始まったことではない。
ここが良い
◯ このままで使えます。bukan barang baru(新しい品物ではない)を、日本語の慣用句「今に始まったことではない」にきちんと置き換えられています。
さらに自然に
模範訳は wacana を「構想」、mengganti を「切り替える」としています。wacana は「議論・言説」とも訳せる語で、訳例の「議論」も誤りではありません。第3文の gagasan(構想)と呼応させるなら「構想」がなめらかです。
第2文
原文
Program serupa pernah digulirkan pada era Presiden Joko Widodo, tetapi pupus di tengah jalan setelah PT PLN (Persero) membatalkannya pada September 2022 dengan dalih menjaga kenyamanan masyarakat di masa pemulihan ekonomi.
訳例(添削前)
同様のプログラムはジョコウィドド政権時代にもすすめられたことがあるが、PT PLN(上場会社)が経済回復の時期における国民の安全を守るという口実で道半ばで2022年9月に中止された。
修正案
同様の計画はジョコ・ウィドド大統領の時代にも打ち出されたが、国営電力会社PLNが2022年9月、経済回復期にある国民の暮らしに配慮するとの名目で中止し、道半ばで頓挫した。
ここが良い
pupus di tengah jalan を「道半ば」、dengan dalih を「口実」と、語の芯はつかめています。
直すところ
Persero は「上場会社」ではありません(誤訳)。PT … (Persero) は、国営企業(BUMN)のうち株式会社の形をとるものを示す表示です。PLN は政府が株式を100%持つ非上場の会社です(背景Q6)。訳では「国営電力会社PLN」とします。
kenyamanan は「安全」ではなく「快適さ・暮らしの安心」。nyaman=快適な。「安全」なら keamanan や keselamatan です。ここでは「国民の暮らしに配慮する」と訳すのが自然です。
主語と述語がねじれています。「PLN が…中止された」では、PLN が中止したのか、何かに中止されたのかが分かりません。原文は「PLN が中止し(membatalkannya)、計画が頓挫した(pupus)」の2段です。それぞれに述語をつけ、時を表す「2022年9月」は前に出します。
dengan dalih は「〜を名目に」。「口実」でも誤りではありませんが、dalih には「建前の理由」という含みがあり、新聞では「〜との名目で」がよく使われます(背景Q2)。
人名と語の選び方。Presiden Joko Widodo=ジョコ・ウィドド大統領(名前の間は中黒)。era=時代。digulirkan は「(政策が)打ち出される」。政府の施策なので「プログラム」より「計画」が新聞らしい訳です。
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第3文以降の添削と、模範訳をまとめて収録しています。あわせて収録しているのは次の内容です。

  • padahal・寄与率・会議名の訳抜け——第4文の4つの落とし穴
  • IHコンロ・外貨・省エネルギー局長——誤訳が重なった第5・9・10文
  • 長い説明は名前の前へ——括弧を使わない第8文の訳し方(図9)
  • baru で意味が逆になった第12文と、800万トンの第13文(図10)
  • 日本語の語選び16と、訳抜けを防ぐ見直しの5分(図11)
  • 模範訳(全文)、重要語彙14、背景メモ、次に狙う3点
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