作文は、テーマの核心から外さない。
インドネシアでは今、2027年の最低賃金をめぐって、労働組合と経営者の主張がぶつかっています。このテーマで書いたインドネシア語の作文(本文134語)を、1文ずつ添削しました。
結果は49点/100。大きな失点は3つ。最低賃金のテーマなのに、最低賃金の話をほとんど書かなかったこと、締めの1文に主語がなかったこと、そして pemberantasan PHK(解雇の撲滅)のような言葉の組み合わせの誤りです。
インドネシアの労働事情を知らなくても読めるよう、最低賃金の決まり方から順に解説します。
①テーマの核心——テーマ文を「何を(核心)」と「どんな状況で(条件)」に分けます。今回の核心は penetapan upah minimum 2027(2027年の最低賃金の決定)。これを題名と3つの段落すべてに入れます。
②文の骨組み——主語と述語がそろっているか。Dengan・Dalam・Untuk などの前置詞で文を始めたら、その後ろに主語があるかを必ず確かめます。
③言葉の相性——memberantas(撲滅する)は korupsi(汚職)と、PHK は melakukan(行う)と組みます。単語ではなく、組み合わせで覚えます。
書く前に、5つの問いを押さえておくと、テーマの何が問われているのかが見えてきます。
インドネシアの最低賃金は、全国一律ではありません。州ごとの UMP(Upah Minimum Provinsi)と、県・市ごとの UMK(Upah Minimum Kabupaten/Kota)があり、毎年、知事が翌年の金額を決めます。適用は1月1日からです。
引き上げ幅は、「インフレ率+経済成長率×α(アルファ)」という式で計算します。αは、経済が伸びた分のうち、どれだけを賃金に回すかを決める係数です。2026年分は、2025年12月17日に署名された政令(PP 49/2025)で、αの幅が0.5〜0.9と、それまでの0.1〜0.3から大きく広がりました。たとえばジャカルタ特別州の2026年の最低賃金は、月5,729,876ルピア(前年比+6.17%)です。
(以前は0.1〜0.3)
労働組合(KSPI と労働党。代表は Said Iqbal)は9月17日、2027年の最低賃金を7.5〜9.5%引き上げるよう求めました。一方、経営者団体の Apindo(インドネシア経営者協会)は、大幅な引き上げは人手を多く使う産業の解雇を招くと警告してきました。
もう1つの事情は、新しい労働法づくりです。2024年10月、憲法裁判所は、雇用創出法(いわゆるオムニバス法)から労働の分野を切り離し、新しい労働法を2年以内につくるよう命じました。国会は2026年8月27日、労働保護法案(RUU Pelindungan Ketenagakerjaan)を議員提出の法案として承認し、政府も9月14日に修正意見の一覧を提出しています。ヤシエルリ労働大臣は9月18日、「2027年分の計算式は、この法案の中身しだい」と述べました。決め方そのものが、まだ決まっていないのです。
PHK は pemutusan hubungan kerja(雇用関係を断ち切ること)の略で、会社による解雇のことです。労働省に届け出があった人数は、2023年が64,885人、2024年が77,965人、2025年が88,519人と、3年続けて増えました。2026年も1〜8月で53,490人と、前年の同じ時期(44,333人)を約2割上回るペースです。労働組合は「実際は2025年だけで10万人を超える」と主張しています。
地域では西ジャワ州が最も多く(2025年は全体の約21%)、業種では製造業が中心です。特に苦しいのは、繊維・衣料・履物などの労働集約型産業(人手を多く使う産業)。国内の購買力の弱さ、輸出の伸び悩み、安い輸入品の流入が重なっていると指摘されています(経済研究所 Indef、2026年7月)。
言い過ぎです。最低賃金が守るのは、会社などに雇われて給料をもらう人です。インドネシアで働く1億4,767万人のうち、59.42%(約8,774万人)は、自営業や家族の仕事の手伝いなどのインフォーマル就業で、最低賃金の対象外です(2026年2月、中央統計局)。
作文で「sebagian besar masyarakat(国民の大半)」と書くと、事実とずれてしまいます。数字に自信がないときは、banyak pekerja(多くの労働者)のように、言い過ぎない言葉を選びます。
失業給付の制度 JKP(Jaminan Kehilangan Pekerjaan=失職保障)があります。2025年の政令(PP 6/2025)で拡充され、いまは最後の賃金の60%を最長6か月受け取れます(計算に使う賃金の上限は月500万ルピア)。求人情報の提供や職業訓練もセットです。
模範作文の結論でも、賃上げとあわせて、この JKP を強めることを提案しています。
Katadata(2026年9月17日)KSPI、2027年の最低賃金7.5〜9.5%引き上げを要求
Katadata(2026年9月18日)労働大臣「計算式は労働保護法案しだい」
Bisnis.com(2025年12月18日)政令 PP 49/2025 の計算式
Investor Trust(2025年12月)ジャカルタの2026年最低賃金
Investor Trust(2026年9月16日)労組の10月の行動計画
BCA Sekuritas(2026年8月27日)労働保護法案が国会提案に
Bisnis.com(2026年1月14日)解雇者数の推移(2021〜2025年)
detikFinance(2026年9月25日)2026年1〜8月の解雇者数
Bisnis.com(2025年9月10日)2025年1〜8月の解雇者数
Bisnis.com(2026年1月26日)労組「2025年の解雇は10万人超」
Bisnis.com(2026年7月13日)繊維産業の解雇リスク(Indef)
CNN Indonesia(2026年5月5日)インフォーマル就業者8,774万人
Bisnis.com(2026年5月4日)失業給付 JKP のしくみ
目安は25分。2つのテーマから1つを選び、題をつけて、100〜150語で書きます。
1. Pilih satu tema dari dua tema di bawah, lalu tentukan judul karangan.
2. Panjang karangan 100–150 kata.
3. Tulis dengan jelas dan gunakan ejaan yang benar.
4. Gunakan bahasa Indonesia yang baku.
Kerangka karangan: A. Pendahuluan B. Isi C. Penutup
Tema karangan:
A. Penetapan upah minimum 2027 di tengah ancaman PHK
B. Kehadiran kapal induk pertama bagi pertahanan maritim Indonesia
日本語にすると:次の指示にしたがって作文を書きなさい。①下の2つのテーマから1つを選び、題をつける。②長さは100〜150語。③明確に、正しい綴りで書く。④標準的なインドネシア語(bahasa baku)を使う。構成は「A. 序論 B. 本論 C. 結論」。
テーマA:解雇(PHK)の恐れがあるなかでの、2027年の最低賃金の決定
テーマB:初の空母(kapal induk)の配備が、インドネシアの海の防衛に持つ意味
書き終えてから開く:このテーマで使える語彙 17
| 日本語 | インドネシア語 |
|---|---|
| 最低賃金(州/県・市) | upah minimum provinsi (UMP)/upah minimum kabupaten/kota (UMK) |
| 最低賃金の決定 | penetapan upah minimum |
| 賃上げ・引き上げ | kenaikan upah |
| 労働組合 | serikat pekerja/serikat buruh |
| 経営者・使用者 | pengusaha |
| 解雇 | pemutusan hubungan kerja (PHK) |
| 解雇する/解雇される | melakukan PHK/terkena PHK |
| 労働者 | pekerja(会社の社員は karyawan) |
| 購買力 | daya beli |
| インフレ・物価上昇 | inflasi |
| 経済成長 | pertumbuhan ekonomi |
| 賃金審議会 | dewan pengupahan |
| 労働集約型産業 | industri padat karya |
| 失業給付制度 | Jaminan Kehilangan Pekerjaan (JKP) |
| 再訓練/技能向上 | pelatihan ulang/peningkatan keterampilan |
| インフォーマル就業者 | pekerja informal |
| 人工知能 | kecerdasan artifisial (AI) |
テーマAで書いた作文です。よく書けている表現もあります。di tengah maraknya …(〜が相次ぐなかで)、bertahan hidup(何とか暮らしを支える)、memecahkan masalah(問題を解決する)、menjadi sasaran PHK(解雇の対象になる)は、正しく使えています。まずは全体を読み、テーマの核心が書かれているかを確かめてみてください。
A. Pendahuluan1Meskipun telah lulus S1, seorang mahasiswa masih sulit mencari pekerjaan tetap atau sulit kembali mencari pekerjaan karena tidak memiliki keterampilan khusus digital yang relevan dengan zaman sekarang. 2Hal itu sudah menjadi pandangan biasa di Indonesia. 3Di tengah maraknya PHK di berbagai sektor, sebagian besar masyarakat bertahan hidup dengan upah minimum.
B. Isi4Dalam kondisi sekarang perusahaan sering memutuskan PHK karena sebagian besar pekerjaan dapat digantikan oleh teknologi digital dan AI. 5Sangat wajar bahwa orang yang selama ini menempuh pendidikan di bidang yang dapat digantikan AI menjadi sasaran PHK.
C. Penutup6Untuk memecahkan masalah tersebut, pemerintah perlu memberikan insentif kepada setiap perusahaan supaya perusahaan tersebut dapat menerima karyawan tetap. 7Namun, Upaya pihak perusahaan saja masih kurang. 8Upaya insentif bagi karyawan seperti pembinaan serta pembelajaran keterampilan pun diperlukan. 9Dengan upaya dua arah dapat menjadi solusi pemberantasan maraktnya PHK di Indonesia.
①テーマから外れた——テーマAの核心は「2027年の最低賃金をどう決めるか」です。作文は「就職難 → AIによる解雇 → 研修」という話で、upah minimum は背景として1回出てくるだけ。題名にもありません(図5)。言葉の誤りをすべて直しても、このずれは残ります。
②締めの1文に主語がない——Dengan upaya dua arah dapat menjadi … は、前置詞 Dengan の句が文の頭にあり、dapat menjadi(〜になりうる)の主語がありません。最後の1文は、採点者の印象にいちばん残る場所です。
③言葉の組み合わせ——pemberantasan PHK(解雇の撲滅)、upaya dua arah(双方向の努力)、upaya insentif(インセンティブの努力)、memutuskan PHK。1語ずつは正しい単語でも、組み合わせが不自然です(図6)。
ここからは、題名と9つの文を1つずつ、書いた文(添削前)→ 修正案 → 意味 → 直すところの順に並べています。添削前の波線は直すべき箇所、修正案のマーカーは書き換えた箇所です。直すところには、なぜその語なのかまで書きました。
第3文以降の添削と、模範作文をまとめて収録しています。あわせて収録しているのは次の内容です。
- 「国民の大半」はなぜ言い過ぎか——最低賃金の対象と、言い過ぎない言葉選び(第3文)
- 読点1つで誤読を防ぐ/memutuskan PHK ではなく melakukan PHK(第4文)
- 「解雇されて当然」と読まれない書き方(第5文)
- 主語のない締めの1文の直し方(第9文・図7)と、テーマのずれの立て直し方
- 模範作文(日本語訳つき)と骨組み(図8)、使える表現11、次回への課題












