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日本語ニュースをインドネシア語に訳す|dokumen か arsip か berkas か——戦後補償の史料公開を、見出し+全12文で添削する

日→イ JAPANESIA

dokumen か、arsip か、berkas か——「文書」の1語で、訳文全体の説得力が変わる

今日の課題は発表ものです。省庁の発表を受けて書かれた、経済紙風のニュース記事。見出し+全12文を、bahasa baku(書き言葉)に訳していきます。
難所は3つ。①「文書」を表す語の使い分け(dokumen/arsip/berkas/bundel)、②人を表す役割語(弁護団・原告・職員・歴史学者)、③日本語特有の言い回し(〜にすぎない/〜にとどまる/〜を余儀なくされる/〜とみられる/見通しは立っていない)。
どれも「なんとなく近い語」を置いた瞬間に、文の意味が別のものになります。とくに役割語は要注意で、弁護団と裁判官団を取り違えると、主張の主体が正反対になります。
それから漢数字と「万」1万2千=12.000 です。120.000 と書けば桁が10倍ずれます。数字は、訳し終えたあとにもう一度だけ指を折って確かめる——それだけで防げます。
図解8点と用語ポップアップで、見出しから締めまで13のかたまりに分けて訳します。

見出し+全12文 図解8点 用語解説32 模範訳つき

今日のねらい:語を1つ選び違えると、文全体が別の意味になる

構文の力と、語を選ぶ力は別のものです。関係節も受動も正しく組めているのに、名詞を1つ選び違えただけで、文がまるごと成立しなくなる——今日はそれが起きやすい素材です。

たとえば「弁護団」tim kuasa hukum(弁護士のチーム)と dewan hakim(裁判官の合議体)は、法廷で向かい合っている別々の立場です。文の形が完璧でも、ここを入れ替えたら、誰が誰を批判しているのかが逆になります。

同じことが「文書」にも起きます。dokumentasi「記録する行為・資料を整える作業」であって、モノとしての文書ではありません。見出しでこれを選ぶと、以降の文がすべて引きずられます

そしてもうひとつ、修飾語の係り先「恣意的な運用の是正」penertiban … secara semena-mena と組むと、「恣意的に是正する」になってしまいます。是正を求めた報告書が、恣意的な是正を求めたことになる——主張が正反対です。

今日は訳し終えたあとに逆算で確かめるという手順を、点検リストの形で最後に置いています。書くときより、読み返すときのほうが、こういう事故は見つかります

訳す前の構えだけ、先に

解説に入る前に、この課題に固有の構えを4つ渡しておきます。訳語そのものには触れません。

①「主語がない日本語」を、毎回どう処理するか決める。「対象は1万2千冊で」「残りは審査が続いており」「今後の課題となる」——行為者が書かれていません。インドネシア語では①主語を補う ②受動 di- で受ける ③ ter- で状態として出すのどれかを選ぶ必要があります。選ばないまま書き出すと、途中で動詞の形が決まらなくなります

② 数字は「基準」とセットで持つ。この記事には4割・1万2千冊・3千冊・30年・2割・6割が出ます。それぞれ何に対する割合かが違います。4割は簿冊全体に対して2割は5年前に対して6割は不開示案件全体に対して基準を取り違えると、数字が正しくても文が間違います

③ 行政・法律の語は、硬さをそろえる。「移管」「簿冊」「不開示」「裁量」「立証責任」「是正」。1か所だけ口語的な語が混ざると、そこだけ文体が落ちますpengalihan/berkas/tidak dibuka/diskresi/beban pembuktian/perbaikan——先に手札を並べてから書き始めると、揺れません。

④ 直接引用は、文体を落とさずに引用符で処理する。日本語の談話は「〜しています」と敬体ですが、インドネシア語に敬体・常体の区別はありません語尾では文体を作れないので、引用符の中も同じ書き言葉のまま置きます。鉤括弧「」は二重引用符 ” ” に置き換えます。

それから、この記事は発表ものであって論説ではありません。書き手の主張は最後の1文だけで、残りは発表内容・制度の背景・当事者の批判です。誰の言葉なのかを層で分けて訳すと、文体が安定します。

STEP 1 まず自分で訳す(見出し+全12文)

1文ずつ訳してください。直接引用の部分も、書き言葉のまま置きます。訳し終えたら、数字の桁人を表す語だけ、先に見直しておくと後が楽になります。

戦後補償の旧文書、4割を公開へ 外務省が移管に踏み切る

課題:次の日本語をインドネシア語(bahasa baku・書き言葉)に訳しなさい

外務省は24日、戦後補償をめぐる交渉の経緯を記した旧行政文書のうち、これまで非公開としてきた簿冊の約4割を国立公文書館へ移管し、順次公開すると発表した。対象は1950年代から70年代にかけて作成された1万2千冊で、移管が済んだのは現時点で3千冊にすぎない。残りは「外交上の信頼関係を損なう恐れがある」として審査が続いており、全面公開の見通しは立っていない。

公文書管理法は作成から30年を経た文書の移管を原則とするが、外交文書には例外規定が置かれ、その運用は各省庁の裁量に委ねられてきた。審査を担う職員は5年前と比べて2割減っており、先送りを余儀なくされた案件も少なくない。有識者会議が昨年まとめた報告書は、不開示とした判断の根拠が記録に残されていない例が全体の6割に上ると指摘し、恣意的な運用の是正を求めていた。今回の発表は、この指摘を踏まえたものとみられる。

もっとも、公開される文書の多くは要約や決裁の記録にとどまり、交渉の実質を示す会談記録には依然として黒塗りが残る。補償を求めて提訴した原告側の弁護団は「立証責任を負わされている側が、必要な証拠にたどり着けないまま裁判を続けています」と批判した。

公開の遅れが研究の空白を生んできたとの見方は、歴史学者の間で根強い。関係者の高齢化が進み、聞き取りによる補完も難しくなりつつある。制度の運用をどう透明化するかが、今後の課題となる。

STEP 2 1文ずつ、語の選び方を確かめる

解説に入る前に、「文書」を表す語を先に片づけておきます。この記事は最初から最後まで文書の話なので、ここが決まらないと1文目から動けません。

「文書」は1語ではありません ── 4つを使い分けます 日本語は「文書」で全部まかなえますが、インドネシア語は指すものごとに語が変わります dokumen ── 中身のある「書類」一般 dokumen administrasi(行政文書)/dokumen diplomatik(外交文書)/dokumen resmi(公文書) いちばん広く使える語。迷ったらここに戻ります。 arsip ── 保存されている「記録・史料」 Arsip Nasional(国立公文書館)/arsip lama(旧文書)/membuka arsip(史料を公開する) 「しまってある/これから公開する」文脈はこちら。今日の記事の中心語です。 berkas ── 綴じられた「1件分」 12.000 berkas(1万2千冊) 日本語の「簿冊」「一件書類」にあたる単位。 数えられるので、数字と直結します。 bundel も同じ働きで使えます。 dokumentasi ── これは「モノ」ではない 記録する行為・資料を整える作業のこと。 dokumentasi acara=イベントの記録(写真・映像) 「文書を公開する」の意味では使えません。 見出しでこれを選ぶと、以降すべて引きずられます。 冊を数える語は buku ではありません buku は「本」。行政文書の1冊は berkas / bundel。同じ「冊」でも、指しているモノが違います。 組み合わせで覚えると、迷いが消えます bundel arsip(簿冊)/dokumen administrasi lama(旧行政文書)/Arsip Nasional(国立公文書館)

図1:dokumentasi は行為dokumen は書類arsip は保存された記録berkas は1件分の綴り見出しの1語が、記事全体を決めます

見出し

戦後補償の旧文書、4割を公開へ 外務省が移管に踏み切る

訳に使う語
pasca- = 〜の後pasca-接頭辞で、うしろの語とくっつけて書きます。pascaperang(戦後)/pascapanen(収穫後)/pascasarjana(大学院=学部の後)/pascabencana(災害後)/pascapandemi(パンデミック後)。
反対は pra-(〜の前)。prasejarah(先史)/prakarsa(発意)/prasarana(インフラ)。
サンスクリット由来の接頭辞で、硬い書き言葉でよく使われます
「補償」を表す語kompensasi=補償(いちばん広い)/ganti rugi=損害賠償(金銭の賠償)/reparasi=(国家間の)戦後賠償/santunan=見舞金・給付。
この記事は国家間の交渉と個人の提訴が両方出てくるので、kompensasi と広く置くのが安全です。reparasi perang国が国に払う賠償に限られます。
「補償」が訳から落ちやすい語です。見出しは短くしたくなりますが、何についての文書なのかが消えると、見出しの役目を果たしません
KemluKementerian Luar Negeri の略。見出しでは略称が好まれますKemendikbud(教育文化省)/Kemenkeu(財務省)/Kemenkes(保健省)。
「戦後補償」。pasca-=〜の後(続けて書く)。kompensasi がいちばん広い
「踏み切る」は動作ではありません日本語の「踏み切る」は、ためらいの末に決断するという意味です。足で踏む動作をそのまま訳すと、意味が消えます
対応する言い方:memutuskan untuk …(〜することを決定する)/akhirnya menempuh …(ついに〜という手段をとる)/mengambil langkah …(〜という措置に出る)/berani …(思い切って〜する)。
見出しでは接頭辞を落とすのが慣例なので、Putuskan Alihkan のように裸の語根に近い形で並べます。
見出しの動詞は、接頭辞を落とすインドネシアの新聞見出しでは、meN- を落とした形がよく使われます。Buka(← membuka)/Alihkan(← mengalihkan)/Putuskan(← memutuskan)/Tolak(← menolak)。
短くして、紙面に収めるための工夫です。本文では必ず接頭辞を戻します
見出しは各語の頭を大文字にするのが一般的ですが、前置詞(ke/di/dari)は小文字のままです。
移管するmengalihkan(移す)/memindahkan(移動させる)/menyerahkan(引き渡す)。管理権限ごと移すニュアンスがあるので mengalihkan が合います。
「移管に踏み切る」。踏み切る=ついに決断する。見出しでは接頭辞を落とす
訳の設計

誰が(Kemlu)何をする(Buka 40 Persen)何を(Arsip Lama Kompensasi Pascaperang)|コンマ|もう一つの動き(Putuskan Alihkan ke Arsip Nasional)日本語は「4割を公開へ」が先で「移管に踏み切る」が後ですが、インドネシア語も同じ順で置けます

原文(再掲)

戦後補償の旧文書、4割を公開へ 外務省が移管に踏み切る

模範訳

Kemlu Buka 40 Persen Arsip Lama Kompensasi Pascaperang, Putuskan Alihkan ke Arsip Nasional

見出しの1語が、記事全体を決めます

見出しで dokumentasi を選んでしまうと、本文の「文書」もすべて dokumentasi になります。1か所の選択が、12文ぶん引きずられるわけです。
だから見出しを訳すときがいちばん慎重になるべき瞬間です。ここで語彙を確定させてから、本文に入ります
そしてもうひとつ。日本語の見出しは「戦後補償の旧文書」「補償」を含んでいます。ここを落とすと何の文書かわからない見出しになります。見出しは短くしたい——でも、記事の主題を示す語だけは削れません

よくあるつまずき

dokumentasi を選んでしまう。dokumentasi「記録すること・資料を整える作業」です。モノとしての文書dokumen/arsip/berkas-si で終わる語は「行為・過程」を指すことが多いと覚えておくと、判断が速くなります(administrasipublikasiverifikasi)。

「戦後補償の」が訳から落ちる。見出しを短くしようとすると、いちばん長い修飾句から削れていきます。しかし「何についての文書か」は記事の主題そのものです。削るなら「旧」や「約」のほうが先です。

「踏み切る」を動作として訳す。melangkah(歩を進める)+peralihan(移行)のように語をつないでも、句として成立しません踏み切る=ついに決断するmemutuskanakhirnya menempuh のように、まず日本語で言い換えてから訳すと外しません。

第1文

外務省は24日、戦後補償をめぐる交渉の経緯を記した旧行政文書のうち、これまで非公開としてきた簿冊の約4割を国立公文書館へ移管し、順次公開すると発表した。

訳に使う語
ter- は目的語を取れませんこれは日→イでいちばん起きやすい事故のひとつです。ter-「その状態になっている」を表す形で、うしろに目的語を置けません
× yang tercatat perundingan(交渉が記録された、という形になっていない)
○ yang memuat riwayat perundingan(交渉の経緯を収めている)
○ yang mencatat riwayat perundingan(交渉の経緯を記録している)
○ tempat perundingan itu tercatat(そこに交渉が記録されている)
tercatat を使うなら記録される側が主語に来ます。Perundingan itu tercatat dalam dokumen tersebut.(交渉はその文書に記録されている)——これは正しい形です。
muat = 積む・載せるmuat(積む・収容する)→ memuat載せる・収録する
Koran itu memuat berita tersebut.(その新聞はその記事を載せている)/muatan(積み荷・内容)/termuat(掲載されている)/bermuatan(〜を含んだ)。
文書・新聞・法律が「何を書いているか」を言うときの定番動詞です。「〜を記した文書」=dokumen yang memuat … と、まるごと覚えてしまうのが速い。
riwayat=経緯・来歴。riwayat hidup(履歴書)/riwayat penyakit(病歴)/riwayat perundingan(交渉の経緯)。sejarah(歴史)より個別の経過に使います。
「交渉の経緯を記した」。ter- は目的語を取れないので memuatmencatat で受ける
「非公開」を表す言い方dirahasiakan=秘匿されている(rahasia=秘密)
tidak dibuka(untuk publik)=公開されていない
tertutup=閉じられている(状態
belum dipublikasikan=まだ公表されていない
行政文書の文脈では dirahasiakantidak dibuka が自然です。tertutup「閉まっている」という状態なので、誰かが意図的に伏せてきたというニュアンスが弱くなります。
「これまで〜してきた」は selama ini過去から現在まで続いてきたことを示します。
法律用語としての「不開示」この記事にはあとで「不開示」も出てきます(第6文)。非公開不開示は日本語では別の語ですが、インドネシア語ではどちらも tidak dibuka/tidak dibuka untuk umum で受けられます。
より硬く書くなら dikecualikan dari keterbukaan informasi(情報公開の対象から除外される)。keterbukaan informasi publik情報公開は、インドネシアでも法律名になっている定型語です。
merahasiakan(秘匿する)/kerahasiaan(機密性)/rahasia negara(国家機密)/sangat rahasia(極秘)。
「これまで非公開としてきた」。selama ini=これまでずっと。dirahasiakantidak dibuka
この文には動作が2つあります日本語をよく見てください。「移管し、順次公開すると発表した」——移管する公開する2つです。
日本語は連用形(移管し)で軽くつなぐので、2つ目を見落としやすい。訳すときは動詞の数を先に数えるのが確実です。
mengalihkan … ke Arsip Nasional dan membukanya secara bertahap kepada publik.
-nya「それを(=簿冊を)」を受けています。2つ目の動詞に目的語を書き直さなくて済むので、文が締まります。
secara bertahap は、どちらに掛けるかsecara bertahap段階的に・順次tahap(段階)から。
ここで注意が要ります。日本語の「順次」は「公開」に掛かっています移管を段階的にやるという話ではありません。
× dialihkan secara bertahap(順次移管する)
○ membukanya secara bertahap(順次公開する)
修飾語をどちらに置くかで、発表の中身が変わります訳し終えたあとに、掛かり先だけ逆算で確かめる——これは今日の記事で何度も出てくる論点です。
alih(移す)→ mengalihkan(移管する)/pengalihan(移管)/beralih(移る)/alih fungsi(用途転換)/alih teknologi(技術移転)。
「移管し、順次公開する」。動詞は2つsecara bertahap は「公開」に掛かる
訳の設計

主語(Kementerian Luar Negeri)いつ(pada Senin 24/8)述語(mengumumkan akan …)動作①(mengalihkan sekitar 40 persen bundel arsip … ke Arsip Nasional)動作②(dan membukanya secara bertahap kepada publik)「〜のうち」の長い限定は、ダッシュで挟んで挿入すると、文の骨が見えたままになります。

原文(再掲)

外務省は24日、戦後補償をめぐる交渉の経緯を記した旧行政文書のうち、これまで非公開としてきた簿冊の約4割を国立公文書館へ移管し、順次公開すると発表した。

模範訳

Kementerian Luar Negeri pada Senin (24/8) mengumumkan akan mengalihkan sekitar 40 persen bundel arsip yang selama ini dirahasiakan — bagian dari dokumen administrasi lama yang memuat riwayat perundingan seputar kompensasi pascaperang — ke Arsip Nasional dan membukanya secara bertahap kepada publik.

動詞の数を、訳す前に数える

日本語は連用形でいくつでも動作をつなげます。「移管し、公開すると発表した」——3つ入っています。
訳すときはまず動詞に印を付ける。そして訳し終えたあと、印の数と訳文の動詞の数が合っているかを見ます。数が減っていたら、どこかが落ちています
今日の記事では、この1文目がいちばん動詞が多い場所です。ここを丁寧にやると、あとが楽になります

よくあるつまずき

「順次公開する」が訳から落ちる。移管だけ訳して終わってしまう型です。secara bertahap を移管のほうに付けてしまうと、公開という2つ目の動作が消えます動詞が2つある文は、必ず2つ訳す——訳文を読み返して動詞を数えるだけで防げます。

ter- に目的語を付けてしまう。× yang tercatat perundinganter- 形は目的語を取れませんmemuatmencatat に替えるか、記録される側を主語にして perundingan itu tercatat … と組み直します。

自動詞と他動詞を取り違える。pindah「(自分で)移る」です。文書は自分で移りませんdialihkandipindahkan受動にするか、mengalihkan他動詞にします。主語がモノのときは、動詞が受動になっていないか毎回確かめる——これは bertambah/menambahnaik/menaikkan でも同じ判断です。

「旧行政文書」を「往古の文書」にしてしまう。zaman dahulu「大昔」です。ここはひとつ前の時代に作られた行政文書なので dokumen administrasi lamalama(古い・以前の)で十分です。

第2文

対象は1950年代から70年代にかけて作成された1万2千冊で、移管が済んだのは現時点で3千冊にすぎない。

訳に使う語
日本語の「万」は、4桁ごとの区切り日本語は万・億・兆4桁ごとに単位が変わります。ところがインドネシア語(と英語)は3桁ごと——ribu(千)・juta(百万)・miliar(十億)・triliun(一兆)
区切りの位置が違うので、頭の中で一度ほどく必要があります
1万=10.000(sepuluh ribu)
1万2千=12.000(dua belas ribu)
10万=100.000(seratus ribu)
100万=1.000.000(satu juta)
1億=100.000.000(seratus juta)
桁を10倍にしないための手順「万」が出たら、いったん数字に書き直す。これだけです。
1万2千 → 12000 → 12.000
頭の中で ribu に直そうとすると、「万=10.000」を掛け算した結果が残りやすい。先にアラビア数字にしてから、3桁ごとに点を打つ——この順にすると事故が起きません。
そしてインドネシアでは点が桁区切り、コンマが小数点です。12.000=1万2千、12,000 と書くと12.0 という意味になります。日本と逆だと覚えておきます。
数値の誤りは、訳文の中でいちばん目立つ誤りです。文法の揺れは読み流されますが、桁が違うと記事そのものが信用を失います訳し終えたら、数字だけをもう一度なぞる習慣を。
「1万2千冊」=12.000日本語は4桁区切り、インドネシア語は3桁区切り
文書は「印刷される」ものではありませんdicetak印刷される。本や新聞なら合いますが、行政文書は「作成される」ものです。
disusun=作成される・編まれる(susun=並べる・組み立てる)
dibuat=作られる(いちばん広い
diterbitkan=発行される(公にするニュアンス)
menyusun laporan(報告書をまとめる)/menyusun anggaran(予算を編成する)/penyusunan(作成)/susunan(構成)。
この記事では第6文にも「報告書をまとめる」が出ます。そこも dirangkumdisusun です。
「〜年代」の言い方dekade 1950-an=1950年代/tahun 1950-an=1950年代(より一般的)。
-an を付けると「その年代・そのあたり」になります。tahun 90-an(90年代)/orang 80-an(80年代の人)。
「AからBにかけて」sepanjang A hingga Bdari A hingga Bantara A dan Bsepanjangその期間を通じてずっとという含みが出るので、長期にわたって作られた文書にはよく合います。
「対象は〜である」Sasarannya adalah/ialah …ialahやや硬く、特定するときに使われます。どちらでも通ります。
「作成された」=disusundicetak は印刷)。dekade 1950-an=1950年代
「〜にすぎない」は2通りで受けられるhanya 3.000 berkas3千冊しかない量が少ないことを言う)
baru 3.000 berkasまだ3千冊にとどまっているこれから増えるはずなのに、今はここまで
この文は「移管が済んだのは現時点で」と言っています。作業が途中であることが前提です。だから baru のほうが日本語の含みに近い
baru「新しい」だけの語ではありません。数量の前に置くと「まだ〜だけ」になります。Baru tiga orang yang datang.(まだ3人しか来ていない)
「〜にすぎない/〜にとどまる」の手札hanya …=〜だけ
baru …=まだ〜にとどまる
tidak lebih dari …=〜を超えない
sebatas …=〜の範囲にとどまる(第8文で使います
tercatat hanya …=〜にとどまったと記録される
日本語の「にすぎない/にとどまる」は、書き手の評価です。「少ない」と思っているから、そう書いているその評価ごと訳すのが、この型のこつです。
sementara=一方で。前半(全体)と後半(済んだ分)を対比させています。「〜で、」という日本語の軽いつなぎは、対比なら sementara に開くと関係がはっきりします。
「〜にすぎない」。baru=まだ〜だけ(これから増える前提)。hanya は量の少なさ
訳の設計

対象は(Sasarannya adalah)数量+単位(12.000 berkas)いつ作られたか(yang disusun sepanjang dekade 1950-an hingga 1970-an)対比(sementara)済んだ分(yang telah selesai dialihkan hingga saat ini baru 3.000 berkas)2つの数字を対比で並べるのが、この文の骨です。

原文(再掲)

対象は1950年代から70年代にかけて作成された1万2千冊で、移管が済んだのは現時点で3千冊にすぎない。

模範訳

Sasarannya adalah 12.000 berkas yang disusun sepanjang dekade 1950-an hingga 1970-an, sementara yang telah selesai dialihkan hingga saat ini baru 3.000 berkas.

数字は、訳し終えたあとにもう一度だけ見る

翻訳で桁を10倍にするのは、一発で信用を失う種類の誤りです。文法の揺れなら読み手が補ってくれますが、数字は補えません
防ぎ方は単純で、「万」が出たら、いったんアラビア数字に書き直す1万2千 → 12000 → 12.000ribu に直す計算を頭の中でやらないことです。
そして訳文を読み返すとき、数字だけを拾って原文と突き合わせる。1回だけでいい。この記事なら 40/12.000/3.000/30/20/60 の6つです。

よくあるつまずき

1万2千を 120.000 と書く。桁が10倍になります。「万」は4桁ごとの単位で、インドネシア語の ribu(3桁ごと)とはずれています1万2千=12.000指を折ってでも確かめる価値があります

「冊」を buku で数える。buku は「本」です。行政文書の1冊=1件分の綴りなので berkasbundel単位の語は、数字と同じくらい意味を持ちます

「作成された」を dicetak(印刷された)にする。文書は編まれる・作られるものです。disusundibuatdicetak だと印刷所で刷られた話になります。

数字は6つ ── それぞれ「何に対する数字か」が違います 基準を取り違えると、数字が正しくても文が間違います 日本語 インドネシア語 何に対する数字か 約4割 sekitar 40 persen これまで非公開だった簿冊の全体に対して 1万2千冊 12.000 berkas 対象となる文書の総数。120.000 は10倍 3千冊 3.000 berkas 1万2千冊のうち、移管が済んだ分 30年 30 tahun 文書が作成されてからの経過年数 2割減 berkurang 20 persen 5年前の職員数に対して 6割 60 persen dari keseluruhan 不開示とした案件の全体に対して 「万」でつまずく理由 日本語は 万・億・兆 と 4桁ごと インドネシア語は ribu・juta・miliar と 3桁ごと 区切りの位置がずれているので、掛け算が残る → 先にアラビア数字に直してから点を打つ 点とコンマは、日本と逆 12.000 = 1万2千(点が桁区切り) 12,000 = 12.0(コンマが小数点) Rp2,50 = 2ルピア50セン → 割合は persen。「割」という単位はありません

図2:数字は6つ、基準は6つとも別「万」はアラビア数字に直してから3桁で区切る——これだけで桁の事故は防げます。

第3文

残りは「外交上の信頼関係を損なう恐れがある」として審査が続いており、全面公開の見通しは立っていない。

訳に使う語
「審査」を表す語は、対象で変わりますpenelaahan精査・検討telaah=吟味する)。文書の中身を読み込んで判断する作業。
verifikasi事実確認(本当かどうかを照合する)
pemeriksaan検査・取り調べ(幅広い。監査にも使う)
penilaian評価(良し悪しを判定する)
seleksi選抜(人や案件を選ぶ)
審査して公開可否を判断するのは penelaahanverifikasi だと「記載内容が事実か確かめる」話になって、この記事の趣旨とずれます。
telaah の仲間menelaah(吟味する・読み解く)/telaahan(考察)/penelaah(審査する人)。
近い語に mengkaji(検討する・研究する)→ kajian(考察・研究)があります。kajian学術寄りpenelaahan行政・実務寄りです。
行政手続きの文脈では、硬い語で揃えるのが原則。この記事は「移管」「不開示」「裁量」と硬い語が続くので、審査も硬い語を選びます。
risiko(危険・リスク)はi が3つresiko非標準の綴りです。会話では見かけますが、書き言葉では risikoberisikoリスクがある
「審査中である」。文書の精査は penelaahanverifikasi は事実確認)
「見通しが立たない」=「いつになるか分からない」日本語の「見通しは立っていない」は、実現するかどうかではなくいつ実現するかが分からない、という意味です。
× belum pasti(まだ確実でない)——実現するかどうかが不確かという意味になり、少しずれます。
○ belum jelas kapan …(いつ〜かは明らかでない)
○ belum ada kepastian waktu(時期の確定がない)
○ belum diketahui kapan …(いつ〜かは分かっていない)
時間の語(kapan/waktu)を入れるのが、この表現のかなめです。
日本語の「〜ない」系を、型で持つ日本語のニュース記事には否定で終わる決まり文句がいくつもあります。手札にしておくと迷いません。
見通しは立っていないbelum jelas kapan …
明らかにしていないtidak merinci/enggan menjelaskan
コメントを控えたmenolak berkomentar
結論は出ていないbelum ada kesimpulan
目処が立たないbelum ada titik terang
どれも直訳では届きません「何が分かっていないのか」を一度日本語で言い直してから訳すと、対応が見つかります。
seluruhnyaその全部が。「全面公開」は dibuka seluruhnyadibuka sepenuhnyapublikasi secara keseluruhan よりも動詞で言い切るほうが自然です。
「見通しが立たない」=いつになるか分からない時間の語を必ず入れる
saling = 互いにsaling互いに。うしろに動詞を置きます。saling percaya(互いに信頼する)/saling membantu(助け合う)/saling menghormati(尊重し合う)/saling pengertian(相互理解)。
hubungan saling percaya信頼関係kepercayaan(信頼)だけでも通じますが、「関係」を訳出したいならこの形です。
hubungan bilateral(二国間関係)/hubungan diplomatik(外交関係)も、外交記事では頻出。
「損なう」を表す語mencederai傷つける・損なうcedera=負傷)。関係・信頼・名誉に使います。
merusak=壊す(物理的にも比喩的にも
mengganggu=妨げる・乱す
melukai=傷つける(身体・感情
menodai=汚す(名誉・約束
mencederai kepercayaan(信頼を損なう)は報道の定型句です。まるごと覚えてしまうのが早い。
「〜として」=dengan alasan …(〜という理由で)。引用符の中は、発表者の言い分です。書き手はそれを引用しているだけ——dengan alasan がその距離を作ります。
「信頼関係を損なう」。saling=互いに。mencederai kepercayaan は定型句
訳の設計

主語(Sisanya)状態(masih dalam penelaahan)理由+引用(dengan alasan “…”)コンマ+danもう一つの状態(belum jelas kapan seluruhnya dapat dibuka)「〜ており、」は dan で軽くつなぐと、日本語のリズムに近くなります。

原文(再掲)

残りは「外交上の信頼関係を損なう恐れがある」として審査が続いており、全面公開の見通しは立っていない。

模範訳

Sisanya masih dalam penelaahan dengan alasan “berisiko mencederai hubungan saling percaya di bidang diplomatik”, dan belum jelas kapan seluruhnya dapat dibuka.

日本語の決まり文句は、意味に開いてから訳す

「見通しは立っていない」そのまま単語に分解しても訳せません見通し=prospek立つ=berdiri ——並べても文になりません。
手順はいつも同じです。①日本語で言い直す(=いつ全部公開できるか分からない)→②その意味を訳す(belum jelas kapan …)。
この「一度日本語で言い直す」工程を飛ばすと、必ず直訳になります。今日の記事には、この型が5つ出てきます。あとで図5にまとめます。

よくあるつまずき

「見通しが立たない」を belum pasti にする。belum pasti「まだ確実でない」——実現するかどうかが不確かという意味です。原文は「いつになるか分からない」belum jelas kapan …時間の語を入れます。

resiko と綴る。標準綴りは risiko です(i が3つ)。形容詞形は berisiko。会話では resiko もよく見かけますが、書き言葉では避けます。同じ型の綴りゆれに analisa/analisis(正:analisis)、praktek/praktik(正:praktik)があります。

Yang sisanya と書く。sisanya(残りは)だけで主語になります。yang を前に付けると「残りであるところの〜」という宙に浮いた句になり、述語につながりません。yang は名詞のうしろに置いて説明を足す語です。

文書の審査を verifikasi にする。verifikasi事実確認公開してよいかを読み込んで判断するのは penelaahan です。行政記事では、硬い語で揃えるのが原則になります。

第4文

公文書管理法は作成から30年を経た文書の移管を原則とするが、外交文書には例外規定が置かれ、その運用は各省庁の裁量に委ねられてきた。

訳に使う語
法律は Hukum ではありませんhukum法・法律という概念全体(英語の law)。ilmu hukum(法学)/penegakan hukum(法執行)/kepastian hukum(法的安定性)。
undang-undang個別の法律・制定法(英語の act / statute)。UU と略します。
だから「◯◯法」という名前には Undang-Undang を使います。Undang-Undang Dasar(UUD)=憲法。
Hukum Pengelolaan Arsip と書くと「文書管理に関する法分野」のような響きになり、特定の法律を指していないように読めます
法令の階層インドネシアの法令にははっきりした序列があります。訳し分けの目安になります。
UUD(憲法)>Undang-Undang / UU(法律)>Peraturan Pemerintah / PP(政令)>Peraturan Presiden / Perpres(大統領令)>Peraturan Menteri / Permen(省令)>Peraturan Daerah / Perda(条例)。
日本の「法」は UU「政令」は PP「省令」は Peraturan Menteri と対応させると、読み手に構造が伝わります。
pengelolaan=管理・運営(kelola=管理する)。penyimpanan(保管)だとしまっておくことだけになります。移管や公開まで含む制度なので pengelolaan
「公文書管理法」。個別の法律は Undang-Undanghukum は法という概念)
「原則とする」には、例外がつきものです日本語の「〜を原則とする」は、「ただし例外がある」を含んだ言い方です。実際この文も後半で例外規定の話になります。
ここで mewajibkan(義務づける)と訳してしまうと、「義務である。しかし例外がある」となって前後がぶつかります
pada prinsipnya mengharuskan …原則として〜を求めている
pada dasarnya mewajibkan …基本的には義務づけている
pada prinsipnya/pada dasarnya という一言を足すだけで、後半の例外と矛盾しなくなります。
義務を表す語の強さmewajibkan=義務づける(いちばん強い
mengharuskan=〜しなければならないとする
menetapkan=定める(中立
mengatur=規定する(中立・いちばん広い
menganjurkan=推奨する(弱い
法律が主語のときmengaturmenetapkan が安全です。強さを決めかねたら、中立の語を選ぶ——これは訳全体に言えることです。
berusia 30 tahun sejak dibuat作成から30年を経たberusia(〜歳である)を文書に使えるのがインドネシア語の便利なところです。
「原則とする」=pada prinsipnya + 動詞例外があることを前提にした言い方
裁量 = diskresi / kewenangandiskresi裁量(行政法の用語としてそのまま使われます)。diskresi pejabat(公務員の裁量)/kebijakan diskresioner(裁量的な政策)。
kewenangan権限裁量より広く、「決める権利がある」こと全般。
keleluasaan自由裁量・ゆとりleluasa=自由な)。やわらかい言い方。
diserahkan pada diskresi …〜の裁量に委ねられるdiserahkan kepada … でも通ります。
「運用」は operasi ではありませんoperasi運転・手術・軍事作戦。機械や身体、部隊に使う語です。
制度・規則の「運用」penerapan(適用)/pelaksanaan(実施)/implementasi(実装・実施)。
penerapannya diserahkan pada diskresi …その運用は〜の裁量に委ねられている
terapan(応用の)/menerapkan(適用する)/diterapkan(適用される)。ilmu terapan=応用科学。
各省庁masing-masing kementerian dan lembaga。インドネシアではK/L(kementerian/lembaga)とセットで言うのが決まりです。kementerian=省、lembaga=庁・機関。
「裁量に委ねる」=diserahkan pada diskresi運用は penerapanoperasi は運転)
訳の設計

主語(Undang-Undang Pengelolaan Arsip Publik)原則(pada prinsipnya mengharuskan pengalihan dokumen yang telah berusia 30 tahun sejak dibuat)逆接(namun)例外(terdapat ketentuan pengecualian bagi dokumen diplomatik)その帰結(sehingga penerapannya … diserahkan pada diskresi …)原則 → 例外 → 帰結の3段です。

原文(再掲)

公文書管理法は作成から30年を経た文書の移管を原則とするが、外交文書には例外規定が置かれ、その運用は各省庁の裁量に委ねられてきた。

模範訳

Undang-Undang Pengelolaan Arsip Publik pada prinsipnya mengharuskan pengalihan dokumen yang telah berusia 30 tahun sejak dibuat, namun terdapat ketentuan pengecualian bagi dokumen diplomatik sehingga penerapannya selama ini diserahkan pada diskresi masing-masing kementerian.

「原則とする」は、後半とぶつからない語を選ぶ

この文は1文の中で自分を打ち消しています原則はこうだ。ただし例外がある。だから実際はばらばらだ——3段構えです。
だから前半の動詞を強くしすぎると、後半と衝突しますmewajibkan(義務づける)と言い切ってしまうと、「義務なのに例外がある」という妙な文になる。pada prinsipnya の5文字が、それを防いでいます。
訳語の強さは、その文だけで決めない次に何が来るかを見てから決める——今日いちばん応用が利く考え方です。

よくあるつまずき

法律名を Hukum で始める。hukum法という概念です。個別の法律Undang-Undang「◯◯法」という固有名詞なら、迷わず UU を選びます。

「原則とする」を mewajibkan にする。後半の「例外規定が置かれ」と正面からぶつかります。pada prinsipnya mengharuskan のように、例外の余地を残す言い方にします。

「運用」を operasi にする。operasi機械の運転・手術・軍事作戦です。制度の運用は penerapanpelaksanaan外来語は、元の英語の語感より狭く使われることがあるので要注意です。

非標準の派生語を作ってしまう。diwenangkan は辞書にない形です。wewenang(権限)の動詞形は berwenang(権限を持つ)/mewenangkan は使われません。迷ったら派生を作らず、既成の言い回しに逃げる——diserahkan pada diskresi … のように。

ここから先は、第5文以降の逐語解説です

この先では、残る8文について 日本語原文 → 訳に使う語 → 訳の設計 → 模範訳 → よくあるつまずき をそろえています。あわせて収録しているのは次の内容です。

  • 人を表す役割語の一覧——弁護団・原告・職員・歴史学者・有識者会議。立場を取り違えると主張が逆になります
  • 「〜にすぎない/にとどまる/余儀なくされる/とみられる/見通しは立っていない」——日本語の言い回しを型で受ける対応表
  • 修飾語の係り先を逆算で確かめる——「恣意的な運用の是正」を、どう組めば主張が反転しないか
  • 行政・法律用語の硬さをそろえる——移管・簿冊・不開示・裁量・立証責任・是正
  • 訳したあとの点検リストと、通しで読む模範訳の全文、復習語彙12
  • 次に狙う2点
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